「紅蓮、その背中の熱は……」
桃太郎との戦いで受けた傷はあれど不自然な吐血。内臓に圧がかかったのか、それとも何か病気を患っているのか。どちらも考えたが、巫女の力が長年見えずにいた真実を告げていた。
「……お前の傷は俺が負う。印の代償は俺の命だ」
姫巫女が気付いたのを悟り紅蓮は冷静に答える。
姫巫女は紅蓮の言葉に驚愕し声が出ないのか、ふっと微笑んで見せた紅蓮をただ見つめる。
「お前には、知らないでいて欲しかったのだがな」
『優しいお前は、苦に思うだろう』
そっと小さく囁くと、姫巫女を抱きしめる。姫巫女は拒否することはせず、ただ紅蓮の体に身を任せて泣いた。紅蓮は他の者に見られまいと、姫巫女を包む。姫巫女の額は紅蓮の胸に触れ、着物越しに紅蓮の心臓の鼓動が伝わる。
ゆっくりと脈打つ鼓動。額から伝わるのは熱と痛み。この命が、己を守ってくれていた。
「印を解くことは出来ないのですか」
もし戦いに出れば、恐らく先程のような怪我を負うことになる。そうなれば必然的に紅蓮の寿命は縮む。何度も傷付いてきた身体。その傷が癒える度に紅蓮の命が使われていたのなら、紅蓮の寿命はもうそんなに長くないだろう。最悪桃太郎が手を下さずとも紅蓮はこの戦で命を落とす。
己は巫女。鬼の頭領閻魔とその子孫紅蓮を討伐する身。しかし溢れる想いを押し戻すことはもはや出来ない。
姫巫女は偽ることを止め、紅蓮の心臓の音に耳を傾け思った。
――紅蓮に死んでほしくはない。
この鼓動を止めたくはないのだ。ずっと求めて止まなかったこの温もりを失いたくなどない。
それはこれまで己さえ誤魔化し続けてきた姫巫女が初めて願った偽りのない思いだった。

