「姫路!姫路っ――!」
記憶の中で笑った姫巫女の顔が蘇って、姫巫女を取り戻すように必死に名前を呼ぶ。
紅蓮の思考はすでに、血だらけの姫巫女を見た瞬間にぶっ飛んでいた。姫巫女を抱き抱えながら、紅蓮は動くことが出来ない。先に動いたのは、桃太郎だった。
「え、ん魔あああああ!!」
風が舞い上がり、疾風を巻き起こした桃太郎が閻魔へ一直線に向かう。赤い月を後ろに煌めく刀は、的確に閻魔の心臓をとらえた。
しかし心臓を貫くはずだった刀は地面に刺さり、桃太郎は閻魔の蹴りを受ける。
「がはっ!」
「若君!!」
腹に蹴りを入れられた桃太郎は、その一撃で飛ばされ、岩に背中を打ち付け血を吐く。痛みで動かない身体は、そのまま下へ落ちていった。
「くく、ははははは!!愚かだな桃太郎!お前に儂は倒せ……」
途中までいったところで、閻魔の余裕の表情が崩れる。見開かれた目は、己の左腕に注がれていた。
「なんだ、これはああああアアアア」
溶けだした左手はみるみるうちに筋肉を腐敗させ、出てきた骨さえも溶かす。やがて腐敗が広がることを悟ると、自らの左腕を切り落とした。
ぼと、と地面に落ちた左腕は完全に腐敗し、その姿を消す。
「はぁ、はぁ、貴様……!!何をしたアアア!」
逆上した閻魔は千切れた右腕から血が出ているのにも関わらず、桃太郎へと向かう。
「高麗!新羅!百済!」
桃太郎が叫ぶと、ギリギリのところまで来ていた閻魔の動きが止まった。正確には、命を受けた高麗、新羅、百済の術によって止められたのだ。三者の術で三方からがんじがらめに縛られた閻魔は身動きが取れない。
閻魔の指先は桃太郎の鼻に届くことなく、静止している。
「貴様等、許さんぞ!これごときでこの閻魔を捕らえられると思うたかアアア!」
閻魔は三人の術を振り払おうとするが、振り払うよりも早く太い首筋に鋭い刃が食い込む。
「許さないのは俺の方だ。……お爺さんにお婆さん、更には姫巫女まで殺し……その腕は巫女の血に触れたからだ。このまま死して償い地獄へ堕ちろ!」
一度首筋から刀を離し、煌めく刃を振り上げる。刃についた閻魔の僅かな血が宙に舞った。

