「貴様の好きなようにはさせない……!」
競り合う刀を押しやり、全身の力で刀を振り下ろそうとした時。
風で雲が流れ赤い月の光が見え始める。
「姫巫女殿っ!」
「――っっ!!」
闇を切り裂くような声が響き渡り、同時に心臓が締め付けられる。
「――っぐっ」
花嫁の印の代償。印をつけた花嫁が傷付けられれば、己の寿命はそれに呼応し縮む。痛む心臓。今までも幾度かあったが、その比ではない痛みが紅蓮を襲う。
「ごぼっ」
喉元にむせかえる血が吐き出され唇を赤く濡らしていく。この感覚。
――まさか――!
直ぐ様向けた視線の先には血だまりの中に倒れ込む姫巫女と、それを見下ろし立っている父、閻魔の姿があった。
次の瞬間には、目の前も足元も真っ暗になって闇へと落ちていく感覚。
「――っ姫巫女!!」
名前を呼ぶ。
応える声はなく、遠くにある姫巫女の身体はピクリとも動かない。代わりに、紅蓮の体は無意識に動く。
背を向け姫巫女の元へと駆け出した紅蓮に、桃太郎は動けずにいた。少なからず困惑しているのは桃太郎も同じようであった。
印の代償で痛む胸を押さえながらも、まっすぐに姫巫女の倒れた場所へと着くと、姫巫女を抱え起こす。
「っ姫巫女!!目を開けろ!!」
姫巫女の身体からは血がとめどなく流れ出し、みるみるうちに顔は白くなっていく。冷えていく身体に、血の気が引いていく感じがした。
「死ぬな!!」
動かない姫巫女の身体を抱きしめて叫ぶ。
新しい血だまりができ、地面は赤く染まる中。姫巫女の血で紅蓮も真っ赤に染まっていた。閻魔はその様子を、楽しそうに見つめる。
姫巫女……!
『私の本当の名は――』
頭の中で幾度となく繰り返される映像。躊躇いがちに、しかししっかりと動いた唇は本来の名前を告げる。
「――姫路(ひめじ)!!」
『姫路、と申します』

