鬼祓う巫女



桃太郎の剣は鋭さを増して休みなく振るわれる。

「お前も二人と同じ目に合わせてやる!!」

最早冷静さを失っているはずだが刃は乱れる事なく的確に急所を狙ってくる。

「……出来るものならな!」

負けじと剣を振りかざし桃太郎の腕を斬りつけても、怯む間もなく向かってくる。まるで痛みなど恐れていないように。


――だが自分も負けるわけにはいかない。




『お前は何のために戦うんだ』

二年前、姫巫女との逢瀬で聞いた問いに、姫巫女は悲しそうに微笑み答えた。

『それが私にかせられた運命だからです』

草の上に並んで腰を下ろす二人は共にこれが最後の時間であることを感じていた。


『受け入れるのか、そんな運命を』

運命に捕らわれるのが嫌で鬼ヶ島を飛び出してきた紅蓮には姫巫女の言葉が納得できなかった。


『諦めたわけではありません。この戦いを終わらせたいだけ…そして私は本来の、巫女でない私へと戻りたい』


『巫女ではない、本来のお前……?』



紅蓮を見つめる姫巫女の瞳は迷いはなく揺れている。


『はい、私の本当の名前は―――』



告げられた真の名前は“姫巫女”よりも彼女にしっくりと馴染む名前であった。



名を聞いてすぐ。近くに鬼の気配を感じ、紅蓮は姫巫女の手を引き寄せる。

『っ、何を――っ!?』


引き寄せた勢いで紅蓮は姫巫女の首元に顔を埋めると、鋭い牙で姫巫女の首筋を深く噛み自らの血を入れる。


駆け巡る熱い異形の血に姫巫女は声にならない悲鳴をあげた。
突然の紅蓮の行動に動揺を隠せない。

『……っなぜ!?』

背中を焼かれるような痛みが身体を駆け巡り意識が朦朧とする中紅蓮へと問いかける。

『俺が世界を手に入れた時、それはおまえが俺の物になるときだ。覚えておけ、姫巫女よ』


姫巫女に刻んだのは鬼の花嫁の印(しるし)。身体の弱い姫巫女が予言の刻までに命を落とさぬように。


代償は紅蓮の生命力。



例え姫巫女に自分が封印されても構わない。
けれど戦いに勝ったなら――