戦う術をまだ知らなかった幼い桃太郎は、身を挺して庇う2人を前にただ泣き叫ぶだけだった。
「逃、げるのじゃ桃太郎…はや、ぐぁぁ」
「……っ爺さん!!」
「行きなさ、い桃太郎……私たちのかわいい子……」
「婆さん!!」
伸ばされた手は、掴まれることなく宙をまう。
切り落とされていく四肢が四方に散らばりやがて2人が息絶えてなお、鬼は攻撃を止めることはなかった。
「――っちくしょう、ちくしょぅ……うぁぁぁぁぁぁ」
やがて、泣き崩れる桃太郎のもとに鬼が血まみれの姿で近寄ってきた。
その真っ赤に染まった手で桃太郎の胸ぐらを掴み、容赦なく言葉をあびせかける。
「憎いだろう。己の無力が悔しいだろう。ならば戦え。誰も運命には逆らえぬ」
真っ赤な真紅の瞳が熱を含む目で見下ろしている。
その目もまた、憎しみに燃えていた。
涙に濡れる目で睨み返す桃太郎を一瞥するなり、そのまま桃太郎の身体を放り投げる。
「があっ」
激しい強打に視界が霞むように見えなくなり意識をてばなしてしまう直前。
「運命の刻、鬼ヶ島にこい」
雷が落ち鬼の顔をはっきりと映しだす。額から頬にかけ刻まれた傷痕。特徴的な鬼の傷痕は、桃太郎の記憶に深く刻み込まれた。
「さすれば我が息子紅蓮がお前を殺すだろう」
最後に意味深な言葉を残すと、鬼の頭領、閻魔は闇の中へと姿を消した。

