鬼祓う巫女



「婆さんが何をした!爺さんが何をした!あんな無惨に殺されるほど、何の罪を犯した!」


桃太郎の悲痛な叫びに、紅蓮は目を見開く。悲痛な叫びは齢十八にも関わらず、桃太郎の幼さを僅かに垣間見せた。



ただただ、二人と過ごす日々は平和だった。争いや戦いなどない毎日。代わりに娯楽も何もない辺鄙な山奥であったが、桃太郎には十分だった。


人間を生かす木があり、生きれるほどの食べ物があり、そこに二人がいれば。他に望むことなどなかったのだ。


桃から生まれ、鬼を退治する宿命を背負っていたとしても。争いを好まぬお爺さんとお婆さんは決して桃太郎を鬼退治などに駆り出そうとすることはなかった。二人さえ居れば人目も鬼も、自分も恐れるものなどない。


どんなに『伝承の子』と周囲から期待を抱かれ、“人”から一線を置かれようと関係ない。幸先短いであろう二人に恩返しをしていきながら、平和な日々を過ごせるのならそれで良い。


桃太郎は、そう思っていた。鬼が来る、あの日までは。



あの日、鬼が山奥にある三人で住む家に訪れた日。まるで鬼の襲名の前兆のように、不吉にも雷鳴がとどろき、強い風と雨に見舞われていた。


当然そんな悪天候の中外に出ることなどなく、家にいたお爺さんとお婆さん、そして幼い桃太郎。

お金を持っているわけでもない三人は、お婆さんの作る吉備団子を包む作業をしていた。雷鳴の不吉な音を掻き消すように、その日も楽しく談笑を行いながら。

しかし楽しい談笑は、突然姿を表した鬼によって遮られる。


「――?誰だ、お前?」


いつの間にか開けられた扉。雨風で濡れた奇妙な男に先に気付いたのは桃太郎だった。


「こんな雨天の中、お主…」
「お爺さん、この方、人ではないですよ――!」


お婆さんの驚きと恐怖の入り交じった声が叫ばれるやいなや、男は口角を妖しく上げ、鋭い八重歯を見せた。雷の光が入り口に立つ男を更に妖しく魅せる。


血のような赤い瞳。筋肉のついた太い筋肉。大きな体。額の角。


お爺さんとお婆さんが桃太郎を守ろうと動くが次。鬼は一瞬で二人を捕える。