それは麗らかな春の日だった。
唯一の肉親だった兄が

多額の借金を残して姿を消した。


「で?片倉一樹(いちき)は朝起きたら姿をくらましてたってか?」


こざっぱりとした事務所にあるソファーにどんと座ったスーツの男。
頬に一文字の傷
怪しく光るサングラス
ブランド物のシックな黒のスーツ
むせかえるくらいの煙草の煙
そして
あたしを囲むヤクザなお兄さん達。
そう、ここはヤクザの事務所。
そんな所にあたし、片倉古樹(こじゅ)は正座で固まっていた。


「どこにいるのか見当つかねぇのか。お前妹だろ」
「つくわけない・・・デス。兄ちゃんが行きそうな場所とか友達とか連絡したけどみんな知らないって・・・」
「・・・だいぶ舐められたもんだな。この俺から金踏み倒して逃げるなんて・・・」
「若頭、どうしますか?」
「探し出せ。どこに行こうが必ず捕まえろ。半殺しでもかまわねぇ」
「はいっ!」