外に出たら…すぐ目の前にいつものようにエサが用意されていた。


 「たくさん食べてね。」

 お孫ちゃんは…それだけ言い残し畑にいる飼い主のおばあちゃんのところに向かった。


“ニャー。”

 ありがとうのお礼の言葉をお孫ちゃんの背中ごしに伝えたオレは…気をとり直してエサの手前に立つ。
 すると…エサのすぐ横に山伏の旅道具が置いてあるのに気が付いた。


 オレは…なんとなく山伏の旅道具を気にしながらエサを頬張りつつ見つめた。


 “誰か旅に出るのかなあ?”


 不自然なシチュエーションに不信な思いでみつめていた時だった。


 「旅の餞別じゃ…。
 命がけの修業旅となるから気を抜かぬようになあ。
 立派な成人(猫)になって帰ってくるんじゃよ…!」

 サア…っと暖かい風の中に混ざり例の仙人らしき声が聞こえた。


 オレは…辺りを見回したが仙人さまの姿はそこにはない。
 再度山伏の旅道具に目をおとす。


 “旅立ちの朝が来たんだ…。”


 オレは…用意されたエサをすべて平らげ舌なめずりをして口をふき空を見上げた。


 旅立ちの朝に相応しい晴天日和だ。


 “必ず立派なネコになってこの場所に帰ってくるよ!”


 空に浮かぶ雲が風で流れて飼い主のおばあちゃんの姿を借りた仙人さまの雲が微笑みを形どった。 それを見届けながら深く決意し…早々に旅の支度にとりかかった。
 近くに備えられた山伏の旅道具を装着し…流れる雲を道標に誰にも知られず旅立った。