“大人になる前に山に修業?”


 オレは…仙人さまの言葉に聞き返した。


 “そうだ…。ここでは代々うちネコになったオス猫はみんな山に修業のため旅にでる運命としきたりがあるのだ。
 強くなりたいと願ったのならそれが旅の始まりをしめす合図の言葉だ!”


 仙人さまの言葉に眠っていた何かが揺さぶられた。


 それは…心の奥からドンドン沸き上がってくる。


 “オレ…行くよ。
 うちネコのしきたりに従い大人になる修業の旅を極めたい!”


 仙人さまは…オレの言葉に大きく頷いた。


 “旅先の贈り物としてこれを…授けよう…。”

 仙人さまは…そういうと、持っていた杖を振るった。

 やがて…杖の周りに白い煙が立ち込めて雲のように…モクモクと沸き上がってきたかと思うと、今度は光を放ちながら形を形成していき…突然…。

 “パンッ…!?”


 風船のようにぷぅっ…とふくらんだ光る白い雲はやがて勢いよく破裂した。


 “うわっ!?”


 目も開けていられない程…風の唸る音が辺りを轟きオレは、前足に力を込めて飛ばされないように踏ん張ったが、風の勢いはとまらず支えていた後ろ足が少しずつ風に押され始めた。


 “ゴォォォッ…。”


 “このままじゃ…飛ばされちゃうよ!”


 オレは身体全体に力を込めて踏ん張った。
 前方にいた筈の仙人さまの姿を、突風は完全に隠し…なおも激しく吹き付けてくる。


 “ドォォッ…!?”


 前足も後ろ足もプルプル限界にきているのか震えが伝わってきた。
 オレは身体を丸めて風の抵抗から守ろうと身を屈めた瞬間!?


 前から勢いよく吹き付けた風に体勢を失い身体は…突風の中へと吹き飛ばされた。


 “うわっ―!?“


 決死の抵抗も虚しくオレは突風の彼方へと落ちていく感覚を最後に気を失った。