画家のゆび




代わりに、とでも思ったか、もしくは少年本人がほしかったのか。



少年は転がってきた芋を手に取った。



無言のまま「いらないの?」と尋ねるように、少年は老人にその芋を見せる。



ところが、やはり老人は芋などには関心をよせず、しきりに右手を動かしながら軒並み連ねる人家の屋根をじっと眺めていた。



「じっちゃん、いらないの?」



大人たちが目を血走らせて取り合った代物だというのに。



老人はまるで無関心だった。




そして少年の前に、膝から下を引きずった骸骨のような男が現れた。



詰め寄るように少年に近付き、その今にも飛び出しそうな目は、少年の右手に拾われた芋をじっと見ている。



少年は困ったように老人とその男を見比べた。



老人はまだ、屋根を眺めながら


「くれてやれ」



とつぶやいた。





男が少年の手から芋をひったくっても、少年はその引きずりながら歩く男の背中を見送るしかなかった。




今日もまた日が落ちる。