画家のゆび




車道の向こうで悲鳴が起きた。



「Daswasherausgetragenwird!!」



「Itcanbecomesilent!!」



「Ilpeutenvoyer!!」



人の騒ぎでなにが起きているのかは聞き取れないが、やがて車が途切れ道の向こうを見渡せるようになると、そこに黒山の人だかりができていた。



人の中心では、屈強な男たちが青ざめた顔で、銀色の瓶を取り合っている。



少年も見たことのある、日持ちする保存食の瓶であった。




瓶を抱え込んだ男は、しかし横から前から手を出され、その瓶を道路に投げ出した。



蓋の開いたそれから、ごろごろと食べ物が転がってくる。




人々はそれを拾い、たちまち逃げるように去っていく。





「ああ、ああああああああっ」




瓶を落とした男は、それを守る気力もなくなったというように空を仰ぎ泣きわめいて、近くの背中を殴ったりけり飛ばしたりしていた。



もはや子供の地団太と同じように、目も当てられないほど情けない。




ふと、人々の足元をすり抜けて芋が一つごろごろと老人の足元に転がってきた。



少年はそれをじっと見つめて、老人の顔を見上げた。




けれど老人は、それには目もくれる様子がない。