画家のゆび




翌日。



昨日の街頭の根元には、同じく手に何も持たない老人の姿があり、やはり右手はしきりに絵らしきを描き続けていた。



寒空の下でも一応角灯は働いている。



少年は挨拶もなしに、老人の隣に座った。



どうせ話しかけても、なにも答えてはくれないと思っていた。




今日も今日とて人は行き過ぎる。



みんな死んだような灰色の顔をしながら、それでも食べ物を求めて身体を動かさなくてはならない。



そして昨日、昨夜と同じように、肩に銃を背負った軍人たちが目をぎらつかせて厳かに歩いていた。




老人は何を書いているのだろう。



この面白みもなく、下手をすれば色さえも失いかけたこの街に何を見ているのだろう。



老人が握っているはずの左手を見てもキャンパスは見えない。




だれかこの哀れな人に、画用紙を恵んでくれればいいのに。