画家のゆび




少年が走ったころにはもう遅く、黒く光る銃口から火が放たれ老人の胸を貫いた。



重く鈍い音がして、少年の胸に重くのしかかる。


どさりと倒れた老人の足が、その傍らの角灯をひっかけて転がし、真っ赤な炎がぼろぼろの老人の服に燃え移った。



「畜生、また屍がひとつ増えたぜ」



「放っておけ、どうせだれか下の奴が処理するさ」



まるまるとした巨体を揺らして、軍人の片方が、老人が落としたスケッチブックを手に取った。


そのページをめくり、さらに嘲り笑う。




「とんだ妄想家だ」




つまらなさそうにスケッチブックを放り投げると、すでに半身を包みつつある炎がその白いページをも飲み込みかけた。



「やめてくれ、やめてくれよ!」



少年は老人の屍に駆け寄り、くすぶり始めたスケッチブックを取り上げた。



火傷をしたって構わずに、少年はスケッチブックをめくる。



まだ、あの絵は無事だった。