画家のゆび




少年はじっとそれを眺め続けた。



老人は、はたして気づいてはいないのだろうか。



やがて建物の角を曲がって、軍服を着て銃を背負った二人組の軍人が近づいてきた。



二人は倒れている男の身体を転がし、さらにその腕に縫いつけられた腕章を見て冷笑を零している。


背の高い片方の男が、老人の背中を蹴った。




「お前が殺したのか」



「いいえわたしは手も出しちゃいねえや」



「ならどうして平気な顔してここに座っている」



「ここはずいぶんまえからわたしの仕事場でね、見ず知らずの男に邪魔されたかねえんです」





老人は毅然としていた。



毅然、というよりは、男の死や軍人の質問などの自分に構うものすべてが鬱陶しいという目をして、ちっとも彼らを恐れている様子はない。



老人は背中を蹴られたはずみで転がった鉛筆を拾おうと手を伸ばした。



底の硬い靴が、そのやせ細った手のひらを踏みつぶした。