画家のゆび




人は武器なくしてはなにも守れない。



寒い冬の夜、暖炉を囲んで祖父はそのきらめきに不気味な目を光らせながら言っていた。



だから銃を持つ兵隊さんたちは国を守れるけれど、ペンを持つ政治家たちは民を守れるけれど、結局おれたちはなにも守れないのだと。



なるほど祖父は死んだ。



あっさりと。



迫害への抵抗の果て、火を噴いた銃の前に人形のように倒れたのだ。




「火は人からすべてを奪い、与えてくれる文明の宝物さ」



街のど真ん中で屍が山積みにされ、火をつけられた。



祖父もまたそのなかでぐったりと腕を伸ばしており、真っ赤な炎がその指先を食らう。



なるほど火は私たちからすべてを奪っていく。



されど炎に縋って生きなければ。




私たちは生かされない。




わたしの目の前でごうごうと音をたてて、暖炉の中の炎は薪を食いながら火を吹いている。



炎よ、お前が今、消えてしまえばわたしはひどい寒さに凍え死んでしまうかもしれない。



されど炎よ、お前がひとたび獣となれば、わたしはお前という命綱を憎まざるを得ないのだ。