画家のゆび




翌日もまた老人の姿があった。



ただしその日の彼の手元には、まっ白いスケッチブックと長い鉛筆があった。



今日は閉ざされたこの街に食糧が配給される月に一度の日で、食糧と一緒に、きっとスケッチブックも売っていたのであろう。



人々は食べ物を求め、半ば奪うために、配給場所へ押し寄せていて通りはやけに静かであった。



少年は老人の肩越しに、そのスケッチブックの中をのぞいた。



その絵に圧倒されるかのように、少年は音をたてて息をのむ。




その鉛筆が写していたのは、この街頭の根元から眺める人家の波であった。



ひとの姿はなく静寂を守り切ったさみしい絵だったけれど、細かに描かれた、洗濯物や自転車や、放置された屋台に日向で眠る猫が美しくて、少年は何度も現実と描かれたものを交互に見る。



美しいね。



その言葉を知っていて、少年がもう少し大人であったら、きっとすぐに称賛して見せたであろう。






少年は涙を拭いながら、逃げて行った。