その夜の夕飯は、具のないスープが一杯だけだった。
「ごめんね」
本気で申し訳なさそうに謝る母に、誰もなにも言えないでいる。
働いて金はあれども、求めるものは町に売ってはいなかった。
また遠くに買いに出ることもできず、少年の家族はこのスープ一杯で寒い夜を過ごさねばならない。
「美味しいよ、母さん」
兄は淀みのない笑顔でスープをあっという間に平らげた。
なんでもないという顔をしてそれを飲み干さなければ、母の胸がつぶれるのであった。
少年もまたそれに倣った。
「ゆっくり飲みなさい、大切な夕飯だからね」
父はくたびれた笑顔で笑って、少年の頭をやさしく撫でた。


