「文句だけは立派だな」



 俺が言うと、奈緒はまた暴れだした。



「早く帰してよ!」




 俺は奈緒を解放した。



 無理に抱いて、振られたら元も子もないからな。



 シチューの器を出そうと思って、歩き出した時だった。



 急にフラフラして―――景色が揺らめいた。



 …遠くで、奈緒の声が聞こえた。




 必死で俺の名前を叫ぶ奈緒――――。



「俺は大丈夫」




 そう言いたいのに、声が出なくて―――意識が途絶えた。