孤独の戦いと限界


『失恋の痛手で泣きたい時とか…』

『失恋…』

『…なんてね』

『………』

しんみりした視線が恵理から送られる。
失恋を内緒にしてと、俺から言ったのに、どうしたというんだろうか。

恵理なら理解をしてくれると、思ってるのだろうか…。

『すまん、変な話題に変えて…。俺は面白い話題とか、よく解らないんだ』

『いいんですよ、宮川君の考えが少し解った気がします』

『そっか…』

『…誰に失恋したの?』

『ん、小さい頃の話だよ』

『小学生くらい?』

『うん、性格が明るくて、優しくて、いつも笑顔でいてくれて…』

『………』

『たまに、悲しそうな表情もするんだ。その表情も鮮明に記憶に残ってる…』

『………』

『一体何があったのかな、って思い返したりするよ』

『…ふぅん』

またもしんみり空気。
深々と会話しすぎたか。


『俺…、あまり面白い性格じゃないだろ?』

『そんな事ないですよ、ただ…』

空気を読まない、昼休み終わりのチャイムが鳴る。


『ただ…?』

『何でもないです‥』

『そか‥』

『そうです♪』

…‥



〜放課後〜

俺は無糖の缶珈琲とお気に入りの本を入れた鞄を持って、図書室に向かった。

…‥


〜図書室〜

『ふむぅ』

今日の図書室は無人室。
無我の境地に達することができそうだ。
缶珈琲を一口飲んで、読書に気合いを入れる。

…‥


〜夜〜

『むぅ…』

ちょっと読みすぎたか。
肩がこったし、目も疲れた。

『宮川‥、まだいたのか』

藤先生、見回りかな。
最近の学校も物騒だから、見回りは欠かせないんだろうな。

『戸締まりの時間ですか?』

『まだ時間はあるよ、部活動してるところもあるしね』

『そうですか…』

『孫子の兵法って、よくそんな難しい本を読めるな』

『歴史の戦国時代では、誰かが読んでいる本ですよ』

『珈琲、一口もらうよ』

『一口目は俺の間接キスですよ』

冗談混じりに言う俺。
最も、そんな事に動じない先生だけど。


『そんなもんを気にする年頃じゃないよ』

俺の言葉を気にせず飲む。しかも遠慮がない。
一口ではなくごくごく飲むし…。


『ブラックかぁ、宮川は甘いのは嫌いだったか』

『缶珈琲の砂糖入りは角砂糖10個以上、入れてありますからね。嫌いじゃないけど、控えてはいます』

『似合わず健康的思考だね』

本を鞄に入れ、席を立つ。今朝の授業中に、叩かれて起こされたのを根に持っていた。


『うん?、もう帰るのか?』

『別に長居しても意味はないですよ』

『先生として生徒の性格を把握して、要望を聞けたと思ったんだがなぁ‥』

『………』

話をしようじゃないか、と間接的に伝わるが、俺は優しい先生が好きであって、本で叩く様な先生は、嫌いこそ言わないが、昔、小学生の時のスパルタ教師を思い出す。


『…俺の性格は授業で寝てるいい加減な性格です』

『‥もしや出席簿で起こしたのを根に持ってるのか?』

『俺の過去にはスパルタ教師にぶたれた事を、今日の起こし方に感じます』

『待て待て、そういう過去は知らないんだ。もし嫌な思いをしたなら気をつけるよ。先生も万能じゃないんだからさ』

『いや、…失礼しますね』

『…そうか、すまなかったな』

『………』


何時間も読書に費やした、図書室を後にする。

勢い余ってバツの悪い事しちゃったかな。

…‥


〜自宅〜

『ただいまぁ』

『あっ、おかえり。遅かったね』

『図書室で勉強してたんだ』

『つまらない嘘は止してよ』

『俺の好きな本を読んでただけだよ』

『‥まぁそれなら納得出来るかな』

…‥


〜自宅〜
〜リビングルーム〜

リビングでいつもながら、俺と友美が腰を下ろし、TV観賞。

『なぁ、友美』

『何ですか?』

『やはり明日も早いのか?』

『風紀委員の活動が忙しくて…、その代わり放課後は早く帰れるよ』

『そうか…、女は身体が弱いんだから無理するなよ』

『解ってるよ、兄さんが心配性なんて似合わないよ』

(俺は根っからの、心配性なんだよぉぉぉ。神経が余りにも細すぎる事を再認識するぜ)

『………』

でも男の俺が心配症は似合わない、か…。
そうかも…、でも‥。

そっと俺の指を友美の手の甲に当てる。

『えっ‥』

TVから目を離し、うつむき加減の俺を見る。


『………』

『………』

『‥やっぱり心配するんだ。大切な事は心配するんだ、無理はするなよ』

『…うん』

…‥