〜放課後〜
〜図書室〜

『…やっと終わった』


授業中に寝てたバツとして、教科書の書き写しを課題にされた。

これでやっと、自分の好きな勉強に専念できる。

《バサバサッ》

孫子、老子、韓非子…
中国の書物を、無造作に並べる。
2千年以上も、人気の陰りを見せないとこをみると、やはり凄いの一言。

俺には…、いや、俺以外にも社会や人間関係に疑問を持つものはいるだろう。

同年代のアドバイスでは、的確な助言を得ることはできなかった。

これらの書物は、人間の在り方や考えを、鋭く指摘してくれる。
俺は、その本から知恵を拝借させてもらっている。

『………………』

『…………』

『……』

…‥


『熱が出るね』

『!っ、藤先生…』

『もうすぐ図書室を閉める時間だ、よっぽど集中してたんだな』

『…みたいです』

3時間ほど、熟読していたようだ。
少し集中しすぎたかな。


『また難しい本を読むんだねぇ』

『きっかけさえあれば、誰でも何にでも取り組めますよ』

『お前がその本を読むきっかけは何だ?』

『………』

…失恋、だけど何か言うのが恥ずかしい。
俺は違う言葉を口にした。

『モラルや…、歴史の勉強です』

『これらの本が、か?』

『はい…』

『もっと別の目的があって、読んでいる気がするが…』

『先生だって経験しているはずですよ』

『どういう意味だい?』

『悩み事にぶつかり、解決できなかった時に、書物を頼ったりしませんでしたか?』

『悪いがそこまで考えた事はない。元々、これといった答えなんてないんだし、ね』

『…、……』

今、何か閃いた気がする。

失恋による人のそれぞれのダメージの大きさは、繊細さや神経の細い人間、と浮かび上がった。


『お前はすぐ、考える方だからな。考えすぎると体に毒だよ』

『はい、それは分かってるのですが…』

…俺の脳は特異性なのか、常に回転し続けている気がする。

藤先生のように深く考えず、答えを出さない、ことの方が、正しいなのだろうか…。

『でもいつか、その本を読む本当の理由が知りたいな』

『…些細なことです、先生にとっては。でも俺にとっては…』

『思春期の悩みは、些細なことから始まるよ。まぁ、無理するなよ』

『はい』

『それと…』

『………』

『友達作れよ、お前が一人何かに悩み続ける姿は、ちょっと正視できない』

『…人間いつかは……』

『?』

『俺のように悩みにぶつかるんです。それが早いだけの話です』

『………』

『俺の難しい話は付いていけないだろうと思います。俺に引きずられる事なく、彼ら、クラスメイトは青春してほしい』

『……宮川』

『…俺は俺、彼らは彼ら、それぞれなんです』

『……、難儀な性格だなぁ』

『…時々そう思います』

『また相談しに来いよ』

『…優しさ、と受け取っていいですか』

『えっ?』

『あ、いえ、また相談に行きますね』

『(優しさ…、これが彼が求めている本音か…?)』

『じゃあ…』

…‥


〜放課後〜
〜靴箱〜

しかし、肩がこった。軽くストレッチをする。

『社会が狂ってきているのに、その下にいる人間がまともでいられるか…』


そして、いつもの呟き文句を吐き捨てる。

『!、……』


校舎裏から人影が一人、視界に入り、思考を巡らせる。

夕暮れのこんな時間に…。
部活をしている様子もなく、やけに苛立っている。

『………』


何してたんだろ?、校舎裏が妙に気になった。

……


〜校舎裏〜

ここには焼却炉で、ゴミを捨てる以外は行く機会はない。

『………』


新しい心霊スポットに、期待を外したんだろうか。

俺は足音を消し、物陰に隠れて、周りに気を配った。

『……、!』

一人の女性が頭を手で押さえていた。
さっきの男を思い出し、戦慄した。

まさかDV!?

『大丈夫っ!?』

『!!、…ビックリしました』

『………』

物陰に隠れてたんだった、いきなり現れてビックリさせみたいだ。

『…あなたは?』

『そんな事より頭は大丈夫?、殴られたのか?』

『…殴られた?』

『頭を押さえているし…、男がここから出て来たし…』

『それは勘違いです、その…』

『じゃあどうしたの?』

『…告白されちゃって』

『へっ?』

『………』

間抜けな声が出た。
じゃあ、頭はどうしたんだろうか?

『頭が痛そうだけど、殴られたんじゃないの?』

『それは違います。単に、頭痛です』

『…そっか、驚いたよ』

『………』