〜翌日〜
『苦しいよ‥』
二日酔いどころではない。本気でしんどい。。
昨日の電話のイラつきで勢いに任せ、がぶ飲みしてしまった。
今日が祝日でよかった。
危うく学校に登校出来ないとこだった。
『寝てよう‥』
…‥
‥
‥ポーン
『…う〜ん』
ピンポーン、ピンポーン…
藤先生じゃないだろうな、仕方なく下へ下りる。
『はい‥』
『恵理です、起きてました?』
『えっ…、また急にどうしたの?』
『お姉ちゃんが、優助君の様子を見てこい、って』
『…そんなお世話いらないよ。気づかいだけ受け取っておく』
『そうなんだ、私を門前払いする気なんだ』
『………』
そう言われたら開けるしかない。帰ってもらうほど、冷たくなれない。
《ガチャ》
『?』
恵理の片手に鞄が一つ。
妙な重さを感じた。
『ん…、何か酒臭いよ』
『あはは…、わかる?』
『また飲んだの!?』
『…少しね』
『飲むくらいなら、相談しに来てよ!』
『俺にもプライドがあるさ。女の子に甘えるように相談って…』
『陳腐なプライドを捨てて、相談しに来て下さい!、もう…』
『ごめん…』
恵理が怒っていた。
その表情は怒気と、優しさの両面を感じることができた。
…‥
‥
俺と恵理は、リビングルームのソファーに腰を下ろした。
友美とは違い、隙だらけの自分を見せる事ができない。
それにしても、何しに来たんだろう。
『恵理、藤先生は何か言ってた?』
『ちゃんと食事を取ってほしくて。弁当を…』
だから鞄に重量を感じたのか‥。
『友美さんとの電話はどうでした?』
『………』
顔を両手で覆う俺。
話す気になれない…。
『あ…、思い詰めると体に悪いから…』
『離れ離れになると友美が、他の男とどう付き合ってるのか、正直、気が滅入るよ』
『友美さんを信用しないと…』
『電話の内容が、わざわざ男友達の事に触れるんだ。不快でしょうがない』
『決して悪気は…』
『ないのは解ってる。けどそんな話をされて、俺はどう答えればいいのか戸惑うよ…』
『嫉妬の塊になってる。そんな調子じゃ、本当に体がおかしくなりますよ』
『精神はすでに崩壊してるけどね』
『………』
『………』
『じゃあ早速、栄養補給に昼食にしましょうよ?』
『…優しいな、恵理。俺、本当に1人ではどうしようもなくて、酒ばかりだよ…』
『(想い人として見守りたいから…)』
『?、何て言った?』
『優助君は嫉妬の塊だ、って』
『う〜‥』
…‥
‥
『美味しいよ』
『そ、そうですか』
味付けは薄味で、家の料理の味と大差はないけど、作ってくれる人で、暖かい気持ちになる。
実際、料理は嫌な奴が作った飯が絶品でも美味しく感じないし、好きな人に作ってもらった料理は普通でも、心が引かれるものがある。
『ごちそうさま♪』
『明日もお願いしようかな〜』
『え、え〜と…』
『冗談だよ、でも恵理が作ってくれた弁当だから、気持ちまで味わえたよ』
『…そっか』
『美味しかった』
『(弁当のおかずが、昨日の残りだと言えなくなっちゃった…)』
…‥
‥
『恵理』
『うわっと、何かな?』
『?、外に行かない?』
『外へ?』
『ああ‥』
雑念から解き放ちたい。今は友美への嫉妬を忘れて、恵理に付いていてもらいたい。
『う〜ん、まぁ優助君がそれでいいなら』
『行こっ』
やはり1人では限界がある。恵理がいるだけで、何とも言えない安心感を覚えてしまう。
…‥
‥
〜ファーストフード〜
『女ってシェイク好きだね』
『えっ、だって美味しいじゃないですか』
『まぁ、そうだけど』
お金の節約の為、ファーストフードに入った。普段なら、まだ懐が温かいんだけど、酒と精神内科が高くついたな。
『少し血色が良くなった気がしますよ』
『酒で体を壊したからね。恵理の優しさと、弁当が薬になったかな』
『…、お酒はもう止めて下さいね』
『ああ、少し控えるよ』
『止めて下さい!、一滴足りとも禁止です。大体、高校生なんだから、他の先生に見つかったら停学ですよ』
『…止めるよ』
『今から禁酒令です。絶対ダメだからね』
『…はい』
麦焼酎と友達になったばかりなのに…。
1日限りの友達だったな。
…‥
‥
女子高生が、周りなど関係なく大声で笑いまくる。
オーダーも通していないのに、席を取るマナー知らずまでいる。
『………』
そんな奴らでも、俺より社会の適応能力があり、また恋愛に関しても深く考える事なく、成るように成る、と単純で、明快な答えにする事ができるのを羨ましく思う。
『‥また、ボーっとしてますね』
『うん、人間は考える生き物だから』
『正しくない返答‥、悩んでるんでしょ?』
『悪いふうに言えば、そうなるかな』
『悪く言ったんじゃなくて、そのままです』
『そうだろうね…』
『優助君‥』
『ん?』
『今は何も考えず、この時を楽しんで♪』
『あっ‥』
そうだよ!、せっかく恵理に付き合ってもらってるのに、もっと楽しまないと。
…‥
‥
『他の人から見ると、完全にカップルだね』
『そうですね』
『ふたまた、かな‥』
『気持ちまで傾けば、そうなりますね』
『もし、二股だったら軽蔑する?』
『どうだろ‥、難しいかもね』
『簡単だよ、どうして難しいの?』
ふたまたなんて、裏切りの行為だろ。
誰も同意する事はないと思うが…。
『優助君の場合、逃げ道として必要かも知れないですね』
『逃げ道…、どういう意味?』
『優助君はフェミニストだから、それが魅力であり欠点でもあるよ。もし友美さんと別れたら…、とか考えたことがある?』
『!、……』
別れ、というショックな言葉に身体に激震が走った。
確かに考えた事はない。
俺と友美は、永続的な関係だと思っていた。
『ふたまたを正当化する気はないよ。恋人以外に頼れる人物がいてるかな、って事です』
『………』
『独りで考え込まず、どんどん頼って相談に来て下さいね♪』
『‥ありがと』
そういや友美だって、男友達や椎名を頼ってるんだし、俺も恵理に力になってもらった方が絶対いい。
でないと正直、正常が保てない。
…‥
‥
『…私のカップルになってもらおうかな』
『!!、ごふっ!!』
ゴホっ、ゴホ…‥
珈琲が器官に入った‥。
『と、唐突だな。恵理にしては、滅多に言わない冗談だからビックリしたよ』
『周りからはどう見えちゃうかな♪?』
『‥恋人同士、かな』
『かな』
『俺には友美がいるから関係ないが…』
『うん、そうだね…』
『でも、恵理には感謝してる。恵理の助けがなかったら、俺どうなっていたのかわからない…』
『役に立ったなら嬉しいかな』
『本当に…、本当にありがとう、恵理』
『…、……』
『………』
『そんな真摯な態度とられると‥』
『頬が赤くなる?』
『…ほんのり』
ふむ…、確かにほんのり火照ってる。
照れ屋さんなんだ、新しい恵理の一面。
『もっと見つめられると、猿の顔みたいに真っ赤になる?』
『!、猿じゃないです!』
『例えばだよ、例えば…』
『クスっ』
『あはっ』
二人して吹いた。
俺に似て、恵理も天然なんだな。
…‥
‥
