孤独の戦いと限界


〜昼休み〜

『二日酔いだな…』

酒が体内に残っているんだろうか。
酔いがひどくて、気分が悪い。

体がふらふらする…。
かなりの間、サプリメントと酒で過ごしたから、当然、身体がおかしくなっている。

『………』

けど今の生活を改める気もない。酒だけが、失意から解放させてくれるんだから。


『優助君』

『………』

『ゆ、優助君?』

『あっと、ごめん恵理。何かな?』

『昼ご飯一緒に食べませんか?、私の手づくり弁当です♪』

『手作り…』

『そうです♪』

『…悪いが気分が悪くて、食欲がないから』

『そんな…、私の手作りなのに。少しショックです』
『ご、ごめんなさい。ごめんね』

わざわざ、恵理が俺に手作り弁当を作ってくれたんだ。
素っ気ない返事をした自分に、嫌気がした。
だが、二日酔いで本当に食欲がないんだ。


『ごめんね、本当に食欲がないんだ…』

『ダメですよ、ちゃんと食事しないと』

『サプリメントがあるから大丈夫だよ』

『そういうのは、ただのタブレットです。食事はとって下さい』

『…はい』

…‥


強引に屋上に連れてこられて、適当な場所に座る。日差しが強く、大分と春らしい気温だ。

季節は春なのに、俺の心は真冬のように凍てつき冷たい。


『はい、どうぞ♪』

『手作り弁当だっけ?』

『さっき言った通りね、美味しいと思いますよ』

『………』

泣けるぜ…‥
凍てついた心に、光が差し込むようだ。

《モグモグ…》

『ん‥』

『どうですか?』

『…美味しい、というか久しぶりに食事をした。味覚が大分と鈍感になってる』

『今まで何を食べてたのですか?』

『サプリメントと麦焼酎。後、サラミを少々』

『焼酎ってお酒じゃないですか!、食事もしないで体に悪すぎですよ』

『ああ、友美に知れたらヤバいと思う…』

『…まだツラそうですね』

『ん?』

『友美さんと連絡を取らないのはホントに、勉強の邪魔しない為だけですか?』

『…友美には仲の良い男の親友が出来たみたいだ。気が狂いそうになる』

『そんな、ボーイフレンドが1人できたくらいで』

『………』

『う〜ん、極度な嫉妬ですね』

『嫉妬って限度を超えると病気みたいに苦しい。男友達の話をする度、心がひどく疼く』

だが、俺は失恋の予備知識を持っていた。
本を読んで、独学を長い時間こなしてきたというのに…。

今一度、自分の失恋で学んだ事を復唱する。

恋愛感情を一人歩きさせないこと。
恋愛感情の虜にならず、常に引く勇気を忘れてはならないこと。

…何一つ、実行しなかったのか?

そもそも愛する力が強ければ、嫉妬もワンセットで強くなるものじゃないだろうか…。

そんなものを制御できるものだろうか…
しかも、愛情豊かな俺に…。

『優助君?』

『………』

『優助君!』

『な、なに?』

『…優助君が病んでるのは、友美さんへの異常な嫉妬が原因だろうね』

『異常って…』

『…でも一度、友美さんと話してみたらどう?、随分話してないんでしょ』

『………』

『ねっ?』

『……ああ』

…‥


〜自宅〜

『………』

授業を終え道草せずに帰った。
確かに友美と暫く会話していない。

けど…

男の話題を出されると、また我慢できず、一方的に切ってしまう気がする。
そこは友美が配慮すべきかと思うが、人間は万能な生き物じゃない。

何気なく言ってるのは解ってる。
それはそれで俺からは、男の話は止めてくれ、と言い辛いトコでもある…。

『す〜、は〜』

電話の前で深呼吸をして、心を落ち着かせる。

『………』

全く落ち着かなかった。

…‥


『よし!』

かけてみるか。

《P、P、P、…‥》

『………』

『はい、看護学校の受付です』

『あの、宮川友美の兄の優助です。友美さんを呼んで頂けませんか?』

『携帯番号をお伺いしてもいいですか?』

『090-XXXX-XXXX』

『はい、少々お待ち下さい』

『………』

…‥


『も‥、もしもし、兄さん?』

『友美、久しぶりだね』

『兄さんに電話しても、全然話してくれないもん』

『どうだ、上手くやってるか?』

『その前に聞いておきたいんだけど…』

『何を?』

『食事はちゃんと取ってるの?、椎名の話じゃ兄さんは痩せ細った、って聞いてるよ』

『…ああ、確かに痩せた…、気がする』

『…飲酒もしてるって聞くけど?』

『…してないよ』

『…精神内科にも通っているって聞いたけど?』

『…通ってないよ』

『…本当に?』

『…本当だよ』

『………』

『………』

『…私、帰った方がいいかな?』

『ダメだ、俺のことは一切気にするな』

『椎名さんは、兄さんのことを重病人って言ってるんだよ』

『そう…、なんだ』

『本当に大丈夫なの?』

『大丈夫だよ』

『………』

『何も気にしないでいい』

俺の話ばかりだと、いい加減にうんざりする。
話題を切り替えた。

『………』

『…友美はどうなんだ?』

『えっと…、面白い友達とか出来たよ』

『へぇ〜、どんな奴?』

『私によく趣味や地元の話をするの』

『………』

‥男か?
人だけで、直ぐに男友達に繋げてる俺。

『話が止まらなくて♪』

『…友美』

『なに?』

『女友達か?』

『男の子だよ』

『………』

血管マークが無数に出た気がする。俺は壁をグーで叩いた。

『もしかして嫉妬なの?』

『!、…‥』

胸がムカムカする。
頼む、それ以上嫉妬を与えないでくれ‥。

『嫉妬かな、兄さん♪』

『!、喜んでるのか、友美!?』

『あっ‥、その…』

『………』

『………』

…‥


『調子に乗っ…』

『もう切るよ、じゃあな』

『ちょっと兄さん』

《P》

『うぅ〜、苦しい…』

弄んでるのか…
いや…、嫉妬される側は嬉しいんだろう。
けど嫉妬のいき過ぎは、物凄くつらい。

『ちくしょう‥』

今日も大量飲酒で心を潤そう。

…‥


〜自宅〜
〜夜〜

『ふぅ、いい飲み物があるもんだ♪』

酒だけは俺を裏切らない。
長〜い友達になりそう。


『新しい友達に乾杯…』

《ガチッ》

麦焼酎のビンに、コップを当てた。
これからも、俺の精神の癒しでいてくれ。

無言の麦焼酎のビンが、中で激しく波立っていた。

…‥