孤独の戦いと限界


『………』

恵理まで俺の事を…

だが恵理…、俺の悩み事を解決したところで、残るのは疲労と虚しさ、自己満足感だけだぞ。

俺が恵理を好きになるわけじゃないんだぞ。

いいのか…!?

だが俺もまた、何のお礼を期待するまでもなく、人を助けに行く人間だった。

…不器用な性格だ。

……


〜自宅〜
〜夜〜

拒食症で食欲がないから、適当にサプリメントを噛み砕く。
そして酒を胃へ流す。

固形物が胃にない状態で、しかもストレートだから、酔いの速効性が強い。


『………』

麦焼酎を手に取り、ビンを見つめながら思う。

友美‥、今の俺を見たら、絶対怒るだろうな…。

麦焼酎を更に飲んで、罪の意識を緩和させる。


『…すまない、友美』

離れ離れになるのは早かったよ…、兄の俺が潰れてしまう事になるとは…。

いつまで俺は悲しいのだろうか…。

…‥


『う〜、ボーっとする』

顔面が異常なほど熱い。
目も充血している。

酒がまわってきた。
思考停止が出来る、唯一の休息タイムだ。

《ピンポーン》

インターホンが鳴る。

こんな夜更けに誰だ、俺の至福の時を邪魔する奴は…。
面倒くさい、居留守を貫こう。

《ピンポーン》

『………』

《ピンポーン、ピンポーン…》

『………』

…くそったれ。
俺は毒づき、ちどり足で階段を下りる。


『誰だよ、バーロー』

『藤先生だ、開けてくれるか?』

『…、もう』

『もうって牛か?、さぁ開けてくれないか』

『今の俺は酒が入ってます。日を改めて話します』

『酒だって!?、いいから開けなさい!』

『うぐ…』

仕方ない…
ドアのカギを開けた。

『………』

やけに指が震えている。
酒の後遺症が出始めている。

《ガチャ》

『恵理も?』

『優助君…』

恵理の悲しい目が突き刺さる‥。
今の俺は、それほど追い詰められた顔をしてるのだろうか…。

『…相当飲んでますね』

『そんなに悩んでいるなら、なぜ相談に来ないんだい?。ったく』

『…悩んでないですよ』

『そんな状態で強がらないで下さい』

『………』

酔眼だが、恵理が怒っているように見える。
頭がボーっとして、よくわからないが。


『虚勢を張らんでいいから、あがらせてもらうよ』

『………』

…‥


藤先生、恵理、そして俺でソファーに座り、気まずい雰囲気の中、藤先生が口を開く。


『食器を使った様子がないが、ちゃんと夕食を取ったのか?』

『…ええ』

『ほぅ、何を?』

『サプリメントを…』

『それは夕食なのか?、それに何も食べない状態で飲酒するのは、一番体に悪い飲み方だぞ』

『…今は拒食症ですから』

『えっ!?』

『…拒食症だって?』

『………』

『‥痩せる訳だ、でもいつか体を壊すよ』

『…今の俺の気持ちは俺にしか理解出来ない。他の誰かに理解してもらおうとしていません』

『それは友美の事か?』

『…優助君、どうして相談しなかったの?』

『………』

『この年頃は意地を張るもんだよ、難儀な時期だ』

『………』

『それと、友美とは連絡を取っているのか?』

『一応‥』

『椎名の話だと、俺と会話してる暇があるなら勉学に励んでくれ、と一方的に電話を切るらしいが…』

『椎名の奴…』

小さく吐き捨てるように、呟く。


『椎名さんは宮川君を心配してるんですよ。決して悪く受け取らないで下さいね』

『………』

という事は、俺の情報は椎名から友美に流れている、と見て間違いないな。

その内、飲酒や拒食症、うつ病の情報も届きそうだ。

勉強の支障にならなければいいが…。

『………』

『とにかく、お前は一人で考えすぎだ。しかもネガティブな事ばかりだから、抜け出さないと、いつか本当に体が壊れるぞ』

『優助君…、もっと私達を頼ってね』

『………』

『わかるか、友達の重要性が。お前一人では、所詮限界があるんだ。自分がどうしようもなくなった時は、どうしたらいいと思う?』

『………』

『頼らなければ立ち直れない時がある。遊ぶ、笑うくらいなら誰とでもできる。友達とは助け合う事ができるかだ』

『………』

『…無言を貫かず、心の悲鳴はちゃんと口にしてくれよ。私も相談に乗るからさ』

『…はい』

励ましのあまり泣きそうになるが、グッとこらえる。
俺1人では、やはり限界があるのか…


…‥


藤先生と恵理が帰り、再び静寂さを取り戻す。

皆、優しいんだ…。

少しだけ頼らせてもらえば楽になるかな…。
今は自分の事だけ考えよう。回復に努めて、それから自分を見つめ直そう。

だがこの精神ダメージが、簡単に抜けるとは思えない‥。

その時は苦悩の日々に耐え切れず、尽きてしまうのかも‥。

『ふふっ』

考えてから吹いた。
まさか、な…‥

…‥


〜…〜…〜…〜…
〜談話後の藤姉妹の帰り道〜

『…恵理』

『なに、お姉ちゃん?』

『できるだけ、あいつに構ってやってくれるか』

『別にいいけど、でもどうして?』

『酒にまで手を出すとは、予想になかった。指がかすかに震えていたのは危ないし。飲酒は止めさせてほしいんだ』

『…指が震えるって?』

『アルコール中毒患者によく見られる、酒の後遺症の症状なんだ』

『!、じゃあこのままじゃ…』

『…ああ、あいつ、いきなりどうしたんだろうか』

『…恋人が遠くに行ったもんね、やっぱり悲しいんだよね』

『…まさかそれって、宮川友美の事か?』

『…うん』

『恋人になったとは!?、世間体を意識しない奴だな。ビックリしたよ』

『…優しい彼氏、私も欲しいなぁ』

『作れば?』

『その辺に落ちてるものじゃないんだし…』

……