孤独の戦いと限界


〜自室〜

『眠れない…』

ベッドに寝転んで、もう深夜になるというのに。

友美への気持ちは決めた事だ、それはいい。

‥だが椎名は?
友美の話しぶりからして、椎名も俺の事を‥。

『椎名‥』

…どう言えばいい?

失恋の痛みを軽くする、言い方なんてあるのだろうか…

…、無いよな。
失恋の痛みは、身体中が悲しみで支配され、ナイフで切り裂かれたような苦痛を伴う、今の俺がそうだ。

恵理の理想論、1人しか恋愛できない空想を思い返したりしてみる。

けど、今は何の結論にもなりはしない。

…‥


〜翌日〜

『………』
結局、寝れなかった…。

椎名……
傷が付くのは仕方ないと割り切れない…。

だが決断は早くしないと、俺に対する想いが、椎名の中で膨らみ続け、現実を知った時の苦しむ時間が長くなるだけだ…。

《カチャ》

『あれぇ〜、兄さん珍しい。もう起きてる♪』

友美の声が、ほんの少し気分転換だった。

『‥ああ、今日は朝飯はいらないから』

『お腹減ってないの?、今日は私の手作りだよ』

『…そうか』

『大丈夫?、少しおかしいよ』

『…友美』

『なに?』

『…今日は学校で、俺に接しないでくれ』

『えっ!?、どうして?』

目を丸くして、何事かと見つめられる。

『………』

『………』

5分程の沈黙が、この部屋を支配する。
昨夜の甘味がかった雰囲気とは、まるで別物だ。


『…椎名の事だよ、今日は1人にしておいてくれ』

『………』

…‥


〜学校〜

誰よりも早く教室に着いた俺は、言葉を探していた。
限りなく気が重く、限りなく自分が残酷に思える。

椎名まで、俺と同じような思いをさせたくないよ…

『ふぅ…』

真実、現実は残酷だ…。
ありのままの姿を表す。

『………』

俺が考えてる間に、幾人かクラスメイトが登校して来た。

物珍しい目で見られてしまう。

いつもの今頃は、まだ朝食を食ってる頃だもんな。

…考えすぎて疲れた。少し仮眠しよう。

…‥


?『おはよ♪』

『…、ねっむ…』

『朝から元気ないわね、ほら、しゃきっとして』

『…椎名、か』

『‥何て顔してるのよ。もしかして寝てないの?』

『…まぁね』

『目が充血してるわよ』

無理して元気を振る舞っているのかな…、その空元気が俺には悲しく感じる。

公園の時は、元気というトレードマークのかけらも無かったのに‥。

『…前は変なとこ見せちゃったね、まぁ乙女は複雑だからって事で♪』

『‥解ってる、本気だもんね。複雑になるよ』

『!っ、…‥』

『………』

『…何の事?』

『…放課後、屋上に来てくれるかな』

『!、…‥』

俺たちの時が止まる。
空気が固まったかの様に、二人の動きも固まる。

『‥来てくれるかな?』

『…‥うん』

椎名は言わなければ…
俺は答えなければ…

胸の中のもやもやは晴れない。

青春の1ページには、かなり苦い思い出になるだろうけど…。

俺には…
俺には……

〜昼休み〜

『………』

上の空の俺は、窓の外を眺めていた。
食欲の出ない俺は、力なく机をドンっと叩いた。

『あの、兄さん…』

力なく弱々しい声が俺の耳に届く。


『…朝、言った事を忘れたのか?』

『ごめんなさい、忘れたわけじゃないよ。昼食は?』
『…いらない』

『朝食もとってないじゃない、少しくらい食べた方がいいよ』

『食欲が出ないんだ。椎名の心に傷を付けてしまう事を考えると…』

『…兄さん』

『さぁ、行ってくれ。夕ご飯は食べるからさ…』

『………』


再び、1人になる。
俺には解らなかった…。

椎名の告白に、何て断ればいいのか解らなかった。

椎名1人がつらいなんて、嫌だよ…。

…‥


〜放課後〜
〜教室〜

誰もいない教室に、俺がポツンと座っていた。

今日は椎名は勿論、友美や恵理とも会話をしなかった。

余裕が無いと言えばそうなんだけど、正直なところ俺自身疲れきっていた。


『………』

もうごちゃごちゃ考えるのは止めて、覚悟を決め屋上へ行くしかない…
椎名が俺の答えを待っているんだ…。

足取りが重いまま、屋上へ歩き出す。

〜屋上〜

夕日が沈み始め、町が赤く染まっている。


椎名は…

…体を反対に向けてフェンスに手をかけ、もたれかかっている。
椎名も精神的に、お疲れの様だ…

『…お待たせ』

『…うん』

『………』

『………』

『…‥?』

振り向かず、何かに祈ってるように見えた。

『………』

その真剣そのものの姿が、俺には痛々しかった。

…‥