『………』
あいつが俺の事を…。
けどきっかけは?、そんな素振りもなかったはず。
『………』
恋に理屈はないものかも知れない。
俺がガキの頃、恋をしたのも一目惚れだった。
『兄さん♪』
『ん?』
雰囲気に乗じてか、俺の隣に座る。
俺はドキッして離れようとしたが、手の甲を押さえてきた。
『どうしたのかな♪』
『………』
さも今の状況を、当然のように聞いてくる。
吐息がかかる距離に、俺は動揺する。
『何考えてるのよ、変な事考えてないよね?』
『え、…ああ』
『どっちの返答なの?』
だんだん二人の距離に酔いしれてきた。
二人の空間が、とてつもなく甘みがかってきた。
『ボーっとしてるよ、兄さん』
『人が人を好きになるキッカケを考えていたんだ』
『‥また難しいことを』
『友美はどうして俺を想う様になったの?』
『えっ!?』
『理由は説明出来るか?』
『…理由、そんなもの誰にも解らないかも知れない。ただ愛情は単純に、美的なものではないと言い切れるよ』
『ハハ…、友美らしい答えだね』
『どうせ私は単純だよ』
口を尖らせて不機嫌そうになる。
怒ったというより、軽くふくれる。
『違うよ、面白くて笑ったんじゃなくて友美らしい答えだなって…、そう思った』
『ホントに〜?』
『ホントだ』
…、一応弁解。
『もしかして長年兄さんが一緒に側にいてくれた、信頼、優しさ、温もりが重なり合った結晶かも知れない』
『……そうか』
『その結晶が好きという形に、形成化されるんじゃないかな。特に信頼は作るものじゃなく生まれるものだから。昔から兄さんと一緒だった私は、十分な信頼関係を築き上げるトキがあったと思うよ』
『う…』
中々の理屈だ。
信頼は愛情を支えるからな。難しい事をすらすら喋る友美に、少し嫉妬した。
俺は喋り下手だから。
『…根という信頼から、花という恋心まで育った、かな?』
『花は…』
『?』
『(花は兄さんの愛情の雨水で、咲く事が出来ると信じてる。でも水が無くても頑張って花を咲かせるよ)』
『…?、変な事考えてるのか』
『ち、違うよ!、何故私が破廉恥な事を…。せっかくロマンチックな話なのに…』
『ぶ…』
『ぶ?』
『ぶち壊し?』
『ぶち壊しだよ!』
『…修正する』
そっと友美の手の甲に乗せる。
感情が熱く、甘さが広がっていく。
『…この気持ち、大きくなり過ぎると、どうなるのかな、という不安感もあるよ。一抹の恐さも』
『!!!』
その気持ちは痛いほど、理解が出来る。
また過去の失恋が、鮮明に蘇る。
『その気持ち、それ以上大きくさせるなよ』
『‥どうして?』
『(実らなかった時、その気持ちは反動として、失恋として自分に降りかかるんだ。俺と同じ目に合わせたくない)』
過去の思い出が横切り、顔つきが険しくなる。
『に、兄さん…?』
『いや…、嫉妬が強くなるから体に悪いよ』
『あっ…、そうかも知れないね』
『…寝よか?』
『随分二人で話し込んだしね♪』
『俺、相談に乗れた?』
『十分♪』
……
…
