孤独の戦いと限界


〜自宅〜

図書室で椎名と別れた後、すぐに帰宅した。
友美も帰りが遅くなり、夕飯に思案する。

『夕飯はスーパーの惣菜でいいかな?』

『ああ、DHAが足りない。小魚食って補給しないと』

『大袈裟だなぁ…』

DHAは頭の回転にいいから、俺の好物だったりする。


『俺が買いに行くよ、友美は弁当でいいか?』

『あっ、私も行く』

『行ってくれるの?』

『兄さんも行くの!』

…‥


〜スーパー〜

惣菜の品揃えが豊富で、いつも驚いてしまう。
売れ残りの残飯は、そのまま食費代を浮かせそうだ。

俺は鰯揚げとカラアゲ弁当を選んだ。

『お〜、マイフレンド』

酒の安売りだ、久々に買ってみようかな。

『兄さん!』

『な、何だよ』

『どこ見てるの?』

『えっ、え〜と…』

『許さないよ!』

『はい…』

真面目な友美は、酒の一杯すら許さない。
苦い過去があったからな…

…‥


〜自室〜

夕食後、ベッドに仰向けに寝て思い出にふける。
いつ以来だっけ、酒に興味を持ちだしたのは。

『………』

あの失恋以来だ。
何年も過ぎた過去なのに、いつもいつも付きまとう、心の悲鳴、叫び。

俺にはまともな状態が苦痛で、本に助けを求めては読みあさり、唯一、頭の回転を鈍らせるのが酒だった。

子供の時から酒なんて、興味がなかった。純粋に考えるとジュースの方が美味しい。

常に付きまとう、失恋の思いが時として、俺を苦しめる。

酒を飲み、思考をマヒさせ酔い潰れる。
中学時代の頃、なぜ俺一人だけ失恋で苦しい?、と荒れ狂った。

呆れ返るほど、自制心がなかった。

けど、友美は俺の酒飲みに心を痛め、遂には寝込んでしまった。

不良ぶっているのではなく、悩み事から酒に手を出す様子が、見ていて辛かったらしい。

友美まで辛くなるなんて思わなかった俺は、すぐに飲酒を止めた。

飲酒を止めて、気付いた事がある。

飲酒はもうしないから元気になって、と言った時、友美はようやく笑顔を取り戻した。

酒よりも、友美のスマイルの方が癒される事に気づいたんだ。

『………』

懐かしいセピア色の思い出だ。

…‥


〜リビングルーム〜

『………』


友美はTVに集中して、俺に気付かない。

『っしょぉ』

ジジ臭くソファーに座る。TVはドラマのクライマックスの真っ最中だった。

俺は気にせず小説の続きを読む。

…‥


『………』

『兄さんも見ればいいのに…、って』

『?』

『目が少し赤いよ』

‥さっきの過去の回想のせいかな。

『あはは…、読書のし過ぎかな』

『程々にして下さいね』

『うん…』

…‥


『(椎名の奴、友美にも相談してるのかな…)』

『………』

『友美』

『何?』

『その…、椎名の事だけど何か聞いてる?』

『委員長さん?、何か聞いてるって何を?』

『…何でもない』

『何よ、気になるじゃない』

『(俺にだけ相談しに来たのかな、隠し事ではないと思うが…)』

『兄さん、椎名さんがどうしたんですか?』

『いや、椎名が元気なかったから友美なら知ってると思い、聞いてみたんだ』

『椎名さんが…、何だろ…』

『自分の性格の荒っぽさを、気にしてるみたいなんだ』

『全然荒っぽくないよ、むしろあの元気さが羨ましいなぁ』

『ポロっと本音を出していたよ』

『えっ』

『恋をしたいみたい、やっぱり思春期は皆同じと思った』

『…椎名さんも、なんだ』

『友美は好きな人いるの?』

『!!!、ええっと…』

わかりやすい位、動揺する。
様子からして、誰かいるのかな。

『そんなに驚かなくていいよ、いるの?』

『でも‥』

『いるのか?』

『……うん、いるよ』

『誰?』

『背が高い人…』

『漠然とし過ぎてわからない、名前は?』

『優しい人…』

『‥で、名前は?』

『気を使う人…』

『…そうか』

恥ずかしいらしい。
これ以上は聞かないでおく事にする。

『…本を読む人』

『えっ…』

俺は友美に振り向いて固まる。

『………』

『………』

まさか…、いや、勘違いだろう。
詮索は止める事にした。

…‥


〜日曜日〜

『………ZZZ』

カチャっ

『兄さん、おはよ』

『…おはよ〜』

『しばらく椎名さんとお出かけするね』

『んぁ‥、楽しい一時を』

パタンとドアが閉まる。
俺は何しようかな…。

…‥


暇潰しに公園の古い大木を見に行った。
小さい頃は、この木登りにおおはしゃぎしてたらしい‥。

…‥


『♪〜、♪〜』

一曲歌ってみたら止まらず、何曲も歌い始めている。

こうなると止まる事を知らない。
カラオケの持ち歌を、全て歌う。

『♪〜、♪〜』

…‥


『あれ‥?』

『歌、上手いですね』

恵理が、さも当然の様に前に立って聞いていた。
そんなに一心不乱に歌ってたのかな。


『いつからそこで聞いてたの?』

『5分くらい前かな、歌好きなんですね』

『カラオケへ行くのがもったいないから、無人の公園で、と思ったんだけどね』
適当に会話を返した。

『残念でしたね、私はよくこの公園に来ますよ』

…‥


お互い、暇してたのでその辺りを一緒に歩く事にした。
しかし、女って服装を着こなすだけあって、大人びた感じがした。


『でもびっくりしたよぉ、あんな人気のない所で歌ってるんだもん』

『あの公園は、ガキの頃の懐かしい思い出の場なんだ』

『懐かしい場所、って凄く感慨深くなりますよね』

『まぁね、古い物は潰さずいつまでも残してほしいかな』

『その気持ちわかります。私が通っていた幼稚園も、今はもうなくて…』


…‥