孤独の戦いと限界


(チュン、チュン)

『………』

朝‥、久しぶりに気持ち良く目覚める。
俺の肩元には、まだ友美がすやすや眠っている。

『………』

感情、って出しきった方がすっきりする。

大量の涙を流せることができる人間なのか‥、意外な一面を発見した。

俺は友美の存在が大切な人だという事を、改めて悟った。

『…うん?、兄さん』

俺の肩元で目覚める。

『おっ、友美、起きたか?』

『おはよ…、今日は早いね』

『まぁな、‥寒くなかったか?』

『うん‥』

俺はギュッと抱きしめてから離れ、電気ストーブを付けた。

『布団とベッドの寝こごちにはかなわないから、しっかり暖まってくれ』

『そんなことないよ、温かかったよ』

『朝飯は食パンでいいよな?』

『あっ、うん』

…‥



何も変わらない生活、この変哲のない日常が、幸せを感じる時なんだろうな。今、この時を大切にしなければ…。

…‥


〜授業中〜

『………』

ああ‥、チャイムよ、早く鳴ってくれ。
授業は既に我慢作業と化してるかも知れない‥。

…‥


『あっと、昼休みのチャイムか‥。宮川』

『は、はい』

『昼休み、家庭科室に来る様に』

『家庭科室に?、なんでって聞いていいですか?』

『話があるから』

…、そんな言い方されると緊張が走るぞ。

〜昼休み〜

『あんた、何したの?』

『‥いや、思い当たる事は多々あるけど、最近はご無沙汰だよ』

『兄〜さん!』

『何だよ、何もしてないって』

『じゃあどうして呼ばれるの。‥もう、昨日の今日なのに』

『?、宮川さん、昨日何かあったの?』

『あっ、何でもないよっ!』

『とにかく、叱られて来るよ‥』

『‥(せっかく一緒に食べようかと思ったのに‥)』

…‥


〜家庭科室〜


(コンコン)

『藤先生、俺です』

気が重い‥
俺、何をやってしまったかなぁ。

『開けていいよ』

ドアを開けると藤先生が、昼食タイムを取っている。


『パンはこれだけあれば十分だろ』

『?、おごりですか?』

『そうだ、優しいだろ』

ニヤリとしたが、俺はなぜか怖かった…。
毒入り?、一応匂いを嗅ぐが、焼きそばのソースしか匂わない。


『有難うございます』

頭を下げて部屋を出ようとする俺。

『こらこら、何処に行く宮川?』

『?、昼食に‥』

『話があるって言っただろ、今日はここで食べるんだ』

『!!!、(藤先生と!?)』

『‥何か嫌そうじゃないか』

『…、別にそういう訳じゃ‥』

…‥


何か意図が見え隠れしている。話を聞き出した方がいいな。

『‥あの先生、話というのは?』

カップを受け皿に置き腕を組んで、俺を見据える。

『‥あのさぁ、宮川?』

『はい』

『‥好きな奴いるか?』

『!!!!!!!!!!!!!』

ゴホッ!、思わず唾が器官に入り咳込む。
まさか、この先生は!


『いや、無理無理!。先生には俺よりいい男が…』

『違う違う!、そんな意味じゃなくて、そのな‥』

『………』

『言い方が悪かったね。恋愛に興味を持つ年頃だから、冗談半分で聞いてみただけさ』

『…恋愛は好きな方ですよ、けどプライベートの範囲ですから‥』

『そうだったかもな、悪い悪い』

『(ホントにこの先生は…)』

《ガラっ》
後でドアが開く。

『失礼しますね。あっ、宮川君?』

『少し遅いよ、恵理』

『ちょっと用事ができて‥』

チロっと舌を出す。

『‥恵理も呼んでいたんですか?』

『うん、まぁね、二人じゃ淋しいだろ』

『………』

(ただの食事じゃないか。‥話があって呼んだはず、教室に戻ろうか…)

『宮川君、昼ご飯一緒に食べましょう』

『‥OK』

もういい、今日だけだ。
少しヤケになってきている。

…‥


『三日ぶりかな、こうして食事するのは』

『そうですよ、宮川君、食堂にいないんだもん。探したりしたのに』

『探したり…?』

俺は藤先生のツッコミを避ける為に、すかさず話題を飛ばす。


『友美や椎名と一緒に食べる時があるからね。でも一人の時は外が多いよ』

『そう…、でも見掛けないですよ』

『………』

『外の時は誰からも気付かない様に、木の影に隠れてるから。読書の邪魔されたくないからね』

『どんな本読むのですか?』

『う〜ん、歴史書が多いかな』

『時代劇風?』

『戦国時代風』

『女性が1番、悲惨だった時代?』

『‥、そうだね、美しい女性は政略結婚だったし…、恋愛なんて言ってられないよ』

『う‥、悲惨…』

『後、見るのは風景画くらいかな』

『風景が好きなの?』

『外国の大自然の景色は圧巻してしまうよ』

俺と恵理で談話していたら、仲間外れと思ったのか、藤先生がでしゃばってきた。

『‥とか言って、恥ずかしい本でも読んでるんだろ』

『よ、読んでません!』

『隠さんでいいよ、ほらほら』

『………』

(‥屈辱だ。ここは問答無用で強行突破でいこう)

よし、パンだけはしっかり確保して‥。

『失礼ですよ、お姉‥、!、宮川君!』

失礼します、を走りながら言って加速をかける。どんどん部屋から遠ざかる。

『おい、宮川。冗談だってば!』

嘘みたいな冗談だ‥

…‥


〜学校の裏庭〜

『ハァハァ…』

空腹での全力疾走はキツイ‥。まぁいい、ここで充電だ。

モグモグ…、空腹の体に染み渡るぜ。

…‥


ふぅ、人心地着いた。‥部屋に戻るかな。


〜教室〜

席に着いて授業‥、いや、終業をひたすら待つ。

『兄さん』

『友美か、どうした?』

『藤先生の話、何だったの?』

『別に何でもない話だったよ』

『何でもなくて、呼ばれたりするんですか?』

『けど本当に、何でもなかった話だったぞ』