「課長」
優しい声で美空が俺を呼ぶ。
「さっきも言った通り、私は大丈夫ですから。あのときは...死ぬしかないと思ってました。でも、薫さんや葵さんに助けてもらって、碧を産んで...。今はもう一人じゃない。碧がいるから生きていける。気にしないでと言っても無理かもしれないけれど、私は大丈夫ですから。自分を責めないで下さい。課長は綾さんと和奏ちゃんを大事にしてください」
美空の声が俺の心に響く。
「課長には家族を大切にしてほしい...それが私の願いです」
美空の凛とした表情に、俺は自分の気持ちを伝えなければと決意した。
「美空」
俺が呼ぶと、彼女は「はい」と返事をして俺を真っ直ぐ見つめる。重なる視線。
「...お前が誰のものでもないと知って、俺は今、心底ホッとしている。誰とも結婚してなくてよかった」
テーブルの上に置かれた彼女の手に、自分の手を添えた。
美空は一瞬ビクッとしたものの、手を退けようとはしなかった。たったそれだけのことが、こんなにも嬉しい。
「俺は今でも美空のことが好きだよ」
「...課長」
震える美空の声。
美空の瞳から、一気に大粒の涙が溢れだした。
直ぐ様、俺は美空の側に行き、彼女を強く抱き締めた。
「俺...綾と離婚したんだ」
