「おはようございます」
入口の方から聞こえた声。
見ると、私を助けてくれた男性と奥様の姿があった。
「昨夜は眠れましたか?」
ベッド横の椅子に腰を下ろした奥様が訊く。
「はい...何とか」
言葉少なく返事する私。
「美空さんのことが気になって、迷惑だと分かっていながら来ちゃいました。ごめんなさいね」
お日様のような明るい笑顔で私に笑いかけてくれて、何だかくすぐったい。
「迷惑だなんて...。迷惑をかけているのは私の方です。本当にすみません...」
ただただ謝ることしかできない私に、助かってよかったと言って、少し涙ぐむ彼女。
そんな奥様の肩を抱いて、そっと寄り添う旦那様。
素敵な夫婦。
私には得られないものが、すぐ目の前にある。
同じ妊婦でも、片やお腹の赤ちゃんを道連れにして死のうとし、一方は幸せな家族を築いている。
妬みの気持ちが無いと言ったら嘘になるけれど、お互いを想い合っている二人を前に、素直に羨ましいと思った。
何故死のうとしたのか...聞かれると思ってたけれど、彼らが私に問うことは無く。
私に何か聞くこともなく、自分たちの話を私に聞かせてくれた。
少しずつ解れていく心。
