「言ってたんだよ」
翔が切なそうに言う。
「『課長の家族は私じゃないから』って」
俺の家族?
「お前の家族は、綾と産まれてくる赤ちゃんだから...って。だか..ら...」
翔の声が震えていた。
泣きながら、翔は教えてくれた。
俺の家族は、綾と綾のお腹の中にいる赤ちゃんだから。
俺と綾には家族としての歴史があるから、きっとやり直せる。
これ以上、苦しむ俺を見たくないから。
俺にこれ以上罪を重ねてほしくないから。
だから、もう終わりにするんだと。
俺は家族の元へ戻るべきなのだと。
美空が、そう言っていたと。
翔の話を聞きながら、目の前が歪んでいることに気付いた。
目から止め処なく流れる涙。
南の島で、二人だけの時間を楽しんでいた俺達。
幸せそうな美空の笑顔を思い出す。
美空。
お前は...。
お前はどんな気持ちで俺の側にいた?
どんな気持ちで笑っていた?
俺の前で笑えるように、俺の知らない所でどれだけ泣いた…?
ただただ、俺のためだけに。
――――――俺を守るために。
どうして、笑えた?
苦しいのを我慢して。
痛みに耐えて。
それでも、お前は。
俺のために、笑っていたというのか。
最後だと、決めていたから....。
『課長の時間を私に下さい』
あの時には、もうお前の心は決まっていたのか...?
綾の妊娠を知ってから、お前はどれ程泣いたのか。
どれ程の苦しみ、痛みを味わったのか。
俺を傷付けないように、必死で笑ってた美空。
何で。俺は気付かなかった?
美空は心で泣いていたのに。
笑顔の下では、これ以上はないというくらい泣き叫び、苦しみ、もがいていたのに。
どうして、俺は気付いてやれなかった...?
いや、そうじゃない。俺は...気付かない振りをしていただけだ。
美空に...甘えていただけなんだ。
