「どうだ?遥菜ちゃん、いた?」
気が付けば、いつの間にか翔が背後にいた。
「いや、何の返事もない...」
「電話にも出ないの」
久香さんも不安そうな表情を浮かべている。
「美空!」
諦めきれず、もう一度チャイムを鳴らし、ドアを叩いた。
頼む。出てくれ。
美空...。
どうして出ない...?
その時。
ガチャ...と音がして隣の部屋のドアが開いた。
「美空さん、引っ越されましたよ」
中から出てきた女性が言った言葉に、その場にいた誰もがショックを受けた。
「引っ越した...?」
「ええ」
「いつ...ですか?」
震える声。
「一昨日だったかしら...。トラックが来て家具やら何やら色々持って行ってましたよ」
その女性は俺達三人を怪訝そうな顔で見ながら言った。
そんな...何で...。
「どこへ行ったか知りませんか?引っ越し先はどこか...」
茫然としている俺と久香さんの横から翔が聞いた。
「聞いてないんです。お役に立てなくてすみません。ただ...」
美空の行き先を知らないと言った女性は、何かを言いたそうにしているが、言ってもいいものか思案しているように見えた。
「どんなことでもいいですから、何かあるなら教えてもらえませんか?」
「実は、来ていたトラックが引っ越し業者ではなく、リサイクル業者のトラックだったんです。それに、ちょっと前から大量のゴミを出してたようだし、引っ越しというよりは、身の回りの物を処分しているような感じで...」
「処分...?」
「えぇ。」
どういう意味だ...。
美空が身の回りの整理をしていた...。
なぜ、そんなことをする必要がある...?
久香さんにさえ、行き先を告げずにどこへ行った...?
たった一人で。
他に行く所なんて無いはずなのに。
