海の近くにあるレストランで課長と食事。

自然とさっきの女性の話になる。


「さっきはびっくりしちゃいました。大したこと無さそうでよかったですね」


「水を手渡した頃には顔色も良くなってたし、ただの貧血でよかった」


「そうですね。妊娠中に貧血はよくあることだから...」


この前、立読みしたマタニティ雑誌に書いてあったのを思い出した。



「そう...なのか...」



そう言ったきり無言になった課長。



どうかした...?もしかして、妊娠中なんて言ったから綾さんのことを気にしてる?






暫しの沈黙。




そして...。





「美空...綾のことだが......っ!!」


人差し指を彼の唇にそっと宛がって、彼の言葉を遮る。



「この旅行中は...綾さんのことは忘れて下さい」


「え...?」



「二人だけの時間を楽しみたいから...綾さんの話は...帰ってからにしませんか?」


「...そうだな。せっかくの旅行だしな」



課長...困ってるよね。綾さんのことを私に話すのも、凄く苦しいよね。

でも...もう苦しまないで。

旅行から帰ったら...あなたは家族の元へ帰るべきだと思うから。



だから、この二日間だけは私の事だけを想っていて欲しいの。



お願いだから...。