どれ程の時間が経ったのだろう。


穏やかな波の音が、私達二人を包んでいた。






課長の肩に凭れながら瞳を閉じれば、波の音が耳から身体中に染み込む感じがした。



課長の匂いと潮の香りに包まれて、いつまでもこの時間が続けばいい...と願ってしまう。



叶うはずのない願い...。




「空と海が一つに見えるなんて...本当に素晴らしい場所だな」


課長が言った。



よかった。課長もそう感じてくれて。


決して交わることのない二つのものが、こうして一つに見えるなんて有り得ないと分かっている。

その有り得ない景色が、錯覚とはいえ、目の前に広がっている。



課長がそう感じてくれただけで、私はもう十分です。











その後もしばらくベンチで座っていた私達。



そろそろお昼ご飯でも食べに行こうかと話をしていた時だった。

近くを歩いていた女性が急にその場に蹲ってしまうのを目の当たりにした。


女性の横にいた男性が慌てて彼女を覗き込む。




「どうした?気分悪い?」


彼女の背中を優しく摩る男性。





「ここへどうぞ」


その様子を見た課長が、二人に声をかけた。



私も課長と一緒に立ち上がり、彼女の様子を窺う。





「すみません」


彼女を支えながらベンチに座らせた男性が言った。


大体私達と同じくらいの年齢だろうか。

真っ青な顔で男性に寄りかかる女性。


「大丈夫ですか?」


課長が聞いた。



「大丈夫です。実は妊娠中で...多分貧血だと思いますから...。ご迷惑をおかけしてすみません」


女性を気にしながらも、その男性は私たちに頭を下げた。


その後、近くにあった自動販売機で買った水を渡して、私達はその場を後にした。