「大丈夫かい?」
腰を上げ、私を心配してくれる部長。
「この度はご迷惑をおかけして申し訳ございません。体調がまだ戻らなくて、このまま休職状態のままでいるとみなさんにさらにご迷惑をおかけすることになるので、退職させていただこうと思いまして...」
部長にそう言いながら、鞄の中から退職願を出した。
背後で、みんなの驚く声が聞こえる。
「辞めちゃうの?」
佐山さんや春山さんもビックリしている。
「俺達は迷惑なんて思ってないよ。元気になるまでゆっくり休んだらいいよ。ねぇ、部長」
石川さんもそう言ってくれたけれど...。
「本当にすみません。そう言っていただけてありがたい気持ちはあるんですが、迷惑かけることに変わりはないですし、その状態が私自身心苦しくて...」
どうしても会社にいると修一さんのことを思い出してしまうし、男性恐怖症を再発してしまった今、前と同じように仕事をすることは無理だから。
「僕としては、皆と同じで辞めてほしくないんだけど...。美空君が決めたことなら仕方ないね」
部長はそう言って、私の退職願を受理してくれた。
「今までお疲れ様。元気になったら、いつでも戻って来たらいい。みんな待ってるから」
いつも優しい齋藤部長の言葉がとても温かくて、心が嬉しかった。
部長に菓子折りを手渡した後、課長のデスクの前へ行き、頭を下げた。
「今までお世話になりました。ありがとうございました」
そう言いながら、何故か胸が苦しくて。まるで、お別れの挨拶のようで。
「本当に辞めるのか...?」
眉間に皺を寄せ、私をじっと見つめる課長。
深茶色の瞳に見つめられ、さらに胸が苦しくなる。
「はい。今まで本当にありがとうございました」
唇が震えるのを堪えて笑顔で言った。
「そうか...。また...戻ってこい」
柔らかな笑顔で課長が私に手を差し出した。
その手を握り返す私。
握手で繋がった私たちの手。そこから伝わる温もりに、課長への気持ちが溢れだす。
課長のことが好きすぎて、心の奥が熱い。
愛してる。
愛してる。
震える心...。
