「辛い思いばかりさせて、本当にすまない」
電話から聞こえる、課長の苦しそうな声。
そんな声で謝らないで。
何も言えなくなるじゃない...。
課長が苦しんでいるんだと思うと、切なくなる。胸が痛くなる。
「謝る必要なんてないのに..。確かに、昨日はビックリしたけど...綾さんがいるって分かってて課長を好きになったのは私なのに。私はただ課長の傍に居たいだけだから。綾さんと別れてほしいなんて思って...ないから...」
泣きそうになるのを必死に堪えながら、自分に言い聞かせるようにして課長に言った。
そして、明日退職願を出すために会社へ行くと伝えた。
「そうか...。明日は部長は朝から出かけるはずだから、会社へ来るのは夕方の方がいいかもしれない」
「じゃ...夕方に行きます」
「...美空、その後夕食を一緒に食べようか」
「綾さんは...いいんですか?」
「あいつは今日帰るから...」
少し間を置いて、課長が言った。
「食事、楽しみにしてます」
出来るだけ明るい声を出す。これ以上、課長に罪の意識を感じさせないように。
私自身、元気を出すために。
けれど、電話を切った後、やっぱり沈んでしまう気持ち。
課長と会うのが怖い。課長の口から何を言われるのか...。
「...っ」
不意に感じる吐き気。口元を手で押さえながら、洗面所へ急ぐ。
つわりのせいか、胃が痛む。
ハァハァ...。荒い息を落ち着かせるように、私は胸に手を当てゆっくりと目を閉じた。
