――――突然、美空がトイレに駆け込んだ。
綾の妊娠を知って涙を堪え切れなくなったのだろうか...。
なかなか戻ってこない美空の様子が気になって、綾が何か喋っていたが全く耳に入らなかった。
少ししてトイレから出てきた美空は真っ青な顔で、寝不足だから先に帰ると言って頭を下げた。
そんな彼女の瞳から落ちたキラリと光るもの...。
それは......一滴の涙。
それを見た時、心臓が痛くて苦しくて思わず泣きそうになった。
胸にこみ上げる悔しさ、虚しさ、そして己の無力さ...
俺の隣で気を付けてと美空に声をかける綾を横目に、拳を力いっぱい握りしめ、抱きしめたい衝動を必死に抑える。
ドアから出ていく美空の後姿が弱々しくて、胸が張り裂けそうでたまらない。
『あなたパパになるのよ』
綾が言った。
だが、俺は店を出て行った美空のことで頭がいっぱいで、綾に何にも言えなかったんだ...。
