少しして、課長が戻ってきた。だけど、その顔付きは険しくて、何だか嫌な予感がした。
「綾が...話があるから今からここに来るって」
「は?何で...」
翔さんが眉間に皺を寄せながら少し怒ったように呟いた。
課長によると、話があってこっちに出てきたとのこと。
翔さんのお店にいることを伝えると、翔さんにも聞いてほしいからと、今からここへ来ると言ったらしい。
「俺にも聞いてほしいって...どんな話か知らねえけど、俺は聞きたくないね」
翔さんが不機嫌丸出しで言った。
そっか...。綾さんが来るんだ...。
再び店内が静かになった。
「ごめん」
課長に真っ直ぐに見つめられ、胸が脈打つ。
「綾が来るまでの間、お前の話を聞かせてくれないか?」
暫しの沈黙。
今言ってしまおうか。だけど、綾さんが今から来るのに、言ってしまっていいの...?
さんざん悩んだ挙句、私は課長に言った。
「また今度にします...」
だって、もうすぐ綾さんがここへ来るんだもの。
それを知ってて...言えないよ。
それに、綾さんが来る前に私は帰った方がいいよね...。
そう思い、席を立とうとした私の手を課長が掴む。
「帰るのか...?」
悲しそうな目をして課長が私を見る。
そんな顔で見ないで...。だって、綾さんが来るんだよ...?
なのに、私がここに居るわけにはいかないじゃない。
店に私達4人でいるわけにはいかないでしょ...?
綾さんが来るまでに、早く帰らなきゃ...。
「...はい」
課長の問いに答え、席を立った。
「遥菜ちゃん...」
「遥菜...」
翔さんと久香も切なそうに私を見るもんだから、何だか泣きそうになった。
「じゃ...帰る...」
――――その時、背後にある店のドアが......開いた。
「お待たせ」
振り向かなくても分かる。
聞き覚えのある、透明感のある声。
「やっぱりここだったのね。そんな気がしたから、近くまで来てたの」
後ろを振り返ると、久しぶりに見る綾さんの姿がそこにあった。