店に入ると、翔が俺に気付いた。
「大丈夫か?......って、大丈夫なわけないか」
翔の優しい声。
「何飲む?ビールでいいか?」
「ん?あぁ...いや、今日は酒はやめておくよ」
「どうした?珍しいな、お前がそんなこと言うなんて」
翔が目を丸くしている。そりゃ、そうか。
俺が記憶をなくすほど酔ったなんて、翔は信じられないだろうから。
俺の前にウーロン茶の入ったグラスを置いて、翔も隣に座った。
「...翔、俺はどうしたらいいんだろう...」
ウーロン茶を一口飲んで、グラスを置きながら言った。
「...遥菜ちゃんのこと?」
少し間を開けて、翔が訊く。
周りの客が引いたタイミングで、俺は翔に話をした。
美空に会ってきたこと、そして、綾を抱いたことを。
「...そっか...そんなことがあったのか...」
翔も深刻な顔をして黙り込んだ。
「もう限界なんだ。美空が愛しすぎて気が狂いそうになる」
テーブルの上に置いた手をグッと握りしめる。
俺の横で、溜息を吐く翔。
「なぁ、大和。遥菜ちゃんと一緒になる気はあるのか?」
「当たり前だろ...今すぐにでも一緒になりたいさ。ひと時でも離れていたくないぐらい、あいつが大事だ」
「なら、なるべく早く綾と別れる準備を始めた方がいいかもしれないな」
「頃合いをみて、綾に正直に話をするよ」
「ああ。遥菜ちゃんのことは、俺達が力を合わせて守っていこうぜ」
俺の肩に手を置いて、力を込めた翔。
翔に背中を押され、俺は綾と別れることを決めた。
美空を守るために...。
そのはずだったのに...。
一度狂いだした歯車は、元には戻らないのか...。
