名刺を見ながら、携帯番号を間違えないよう一つ一つゆっくりと数字を押す。
全ての数字を押し終え、少しすると呼び出し音が鳴り始めた。
胸の動悸が少しずつ激しくなるのを感じたけれど、受話器を持つ手と反対側の手を胸に当て、ゆっくりと呼吸をしながら修一さんが電話に出るのを待った。
「もしもし」
少しして、修一さんが電話に出た。
繋がった瞬間、思わず受話器を落としそうになった。
胸に感じる圧迫感で、言葉が出なかった。
「もしもし...遥菜?」
電話の向こうで、私の名を呼ぶ修一さん。
『遥菜』と呼ばれ、まるで、恐怖に支配されるかのように体が強張る。
「......JPフードの美空です。お電話をいただいたみたいで...」
「そんな他人行儀な言い方やめろよ。他人じゃないんだし」
「......」
何なの...?他人じゃないって何...?
「ご用件はなんでしょうか?」
沸々と湧き上がる恐怖心とイライラが入り混じった言いようのない気持ち。
「ま、いいけど...。そうそう、遥菜の時計、俺が預かってるから。それを伝えておこうと思って」
「え?」
時計を預かってる?修一さんが持ってるっていう事?
「どういうことですか」
「そのままの意味だよ。君が外した時計を俺が預かった、ただそれだけ」
「…預かった?」
「これ、どうしたの?」
「......」
どうしたの...って、どういう意味なの...?
「こんな高い時計、まさか自分で買ったんじゃないだろう?」
「...返してください」
「質問に答えろよ」
「あなたには関係ないでしょ。返して」
「どうしようかな~」
明らかに私の反応を楽しんでいる。
「お願いだから...返して」
受話器を持つ手に力が入る。緊張からか恐怖からか、汗ばむ体。
「また連絡するよ」
私の静止を待つことなく、電話を切った彼。
どうしよう...。
まさか、修一さんが持ってたなんて。
大切な時計なのに。
早く返してもらわなきゃ...。
でも、どうやって...?
