食事が運ばれ、佐伯さんは食べながら今回の依頼について話し始めた。


「ここから車で10分程の所に、クリニックを建設中なんです。僕と娘婿が内科兼外科、妻が産婦人科、娘が小児科なんですが、その他にカフェを併設したいと娘が言い出しましてね...。妊婦さんや、小さい子どもさんが来院したときに、ホッと一息つける空間を作りたいんだそうです」



「素敵なお話ですね」


思わず口に出た素直な感想。



「よかった、そう思ってくれる方が担当で」

目尻を下げて、喜ぶ佐伯さん。



「現在は、それぞれ総合病院に勤めていまして...。でも、娘が『家族で一緒の建物で仕事したい』と言うもんですから、思い切って挑戦してみようかという事になったんです。



妻からは、娘に甘い!!っていつも怒られます。一人娘なもので、可愛くて仕方ないんです。今回の話も、娘と娘婿への結婚祝いみたいなものです。なので、依頼主は私ですが、この後のことは、娘婿に任せるつもりです。ゆくゆくは、彼が後を継ぐことになりますから...」




「娘さんも、そのご主人も、本当にお幸せですね」


佐山さんが言う。



私も、本当にそう思う。




「家族みんなが仲良く暮らせたら、それが一番幸せなことだと思うんですよ。娘が結婚して息子ができた。これが、よく出来た息子でね。娘とは海外研修の時に知り合ったらしいんですが、本当に娘にはもったいないぐらいなんです」







そのとき。障子の向こう側から男性の声が聞こえた。



「お義父さん、お待たせしました。修一です」


「入りなさい」



宏一さんの娘婿の修一さんが到着。



障子が開き、彼を見た瞬間。






心臓が止まるかと思った。



呼吸するのも忘れ、瞬きすることなく彼を凝視する。




何故......あなたがここに居るの...?


嘘でしょ...?





少しずつ動悸が激しくなる。




そこにいたのは――――――――過去の男。




私に暴力を振るい、トラウマの原因となった彼がいた。