青のキセキ

ドアを開けた途端、目に入る美空の姿。


両手はコーヒーカップが乗ったお盆で塞がっている。



思わず美空の名を呟く。



すると、一瞬泣きそうな顔を見せたかと思うと、すぐに早口で喋りだす。


まるで、何かを堪えているかのように。



そして、無理矢理な笑顔。



「...大丈夫...か?」




大丈夫じゃないことは明らかなのに。


必死に作った笑顔の下で、泣いていることが分かっているのに。



それでも、声を掛けずにはいられなかったんだ。






すると、美空は大丈夫だと言って部屋へ入り、コーヒーをみんなに配り席に着いた。



努めて平静を装う彼女をみて、胸が非常に痛かった。

部長や石川に変に思われないよう、俺自身も出来る限り冷静になろうと思ったものの、どうしても美空のことが気になり、隙あらば彼女の方を意識して見てしまう。




仕事の話をしようとした時、部長の携帯に会社から電話がかかってきた。どうやら、出張の件で社に戻らないといけなくなったらしく、一人で先に帰って行った。



部屋には、石川、美空、俺の3人。



手帳を見ながら、仕事の確認する。


幸い、急ぎの仕事はなかったものの、いくつかの企画の原案を書類にしたり、クライアントとの約束が何件かあったため、美空と石川に割り振った。





できるだけ早く仕事に戻りたい。



早く、日常生活に戻りたい。






そう思っているのに。






石川の口から飛び出したのは、美空の心を抉るような言葉。



『奥さんの側に居てあげてください』





石川が気を遣って言ったことは十分に理解しているつもりだが、今の俺にはこの上なく辛い。


しかも、美空に同意を求めるように、彼女の意見を聞く。



俺たちの関係を知らないから仕方ないことだとは分かっているものの、美空が返事をしながら肩を震わせているのに、抱きしめてやれない自分が情けなかった。



俺が不甲斐無いせいで、美空を傷付ける。



その事実が、俺をさらに苦しめる。