「す、すみません」
慌てて蛇口を閉め、涙を拭いながら言う。
「もう少しで終わりますから」
布巾で、洗い終わったばかりのコーヒーカップを拭く私。
束の間の沈黙――――。
「...大丈夫か?」
すぐ背後に課長の気配を感じた。
「はい。もう終わりますから」
顔を見られないように、俯きながらカップを拭く。
「そうじゃなくて...」
分かってる。
課長が何を言いたいのか。
綾さんと一緒にいる課長を見て、私が傷付いてないか心配してくれてるんですよね。
そんなの、分かり切ってるのに。
でも、言える訳ない。
辛い、苦しいだなんて。
だって。
今、一番辛い思いをしているのは、他ならぬ課長の奥さんの綾さんなのだから。
大切な家族を亡くし、悲しみに暮れる綾さん。
その綾さんに対して、嫉妬でいっぱいだなんて。
言える訳.......ないでしょ...?
「大丈夫です」
必死で、嘘をつく私。
