「じゃ、俺達もそろそろ帰ろうか?」
石川さんが腰を上げた。
「...はい。その前に、コーヒーカップを片づけてきますね」
私も立ち上がり、空になったコーヒーカップをお盆に乗せ、炊事場へ持っていく。
炊事場に人の気配はなく、ホッとする。
4人分のコーヒーカップを洗いながら、必死で涙を堪える。
課長との関係が始まったときは、ずっと今のままでいいと思ってた。
結婚なんて望んでない。
ただ、彼の側にいられたら...それだけでよかったのに。
土曜日――――ベッドに一人取り残され、彼の後姿を見送った夜。
あの夜から、私は臆病になってる。
このまま、課長が綾さんの元へ戻ってしまったら...と。
そう思うと、心が震えて、怖くてたまらない。
いざという時に、課長を独り占めできる綾さんに対して嫉妬の渦が私をのみこんでゆく。
『妻』が、こんなにも強い存在なのだと思い知らされる。
それと共に、自分の心の醜さが悲しくて。
この気持ち、どうすればいいのだろう。
蛇口から流れる水をじっと見つめるうちに、堪えていた涙が溢れだした。
声を出して泣くわけにもいかず、嗚咽する。
声が漏れぬよう、口元に手の甲を当てながら...。
「美空...?」
背後から私を呼ぶ声。
愛しい人の声が...私を呼ぶ。
