「後、お願いしていいかしら?私、そろそろ戻らないと...」
綾さんに頼まれ、コーヒーカップを乗せたお盆を手に、廊下を歩く。
震える手で必死にお盆を持つ。
コーヒーを運びながら綾さんの言葉一つ一つを思い出す。
わかってたことなのに。
覚悟してたはずなのに。
こんなにも心が痛くて、苦しい。
重い足取りで部屋の手前まで行くと、ちょうど中からドアが開いた。
出てきたのは、課長で...。
「美空...」
二人の視線が...重なる。
綾さんの言葉が蘇ってきて、泣きそうになった。
「あっ、ありがとうございます。お盆で手が塞がってたから、ドア開けられなくて。課長が出てきてくれて助かりました」
涙が溢れそうになるのをこらえて、誤魔化すように早口で課長に言った。
唇が震えるのを悟られないように、口角を必死に上げながら。
「大丈夫...か...?」
泣きそうな顔で私を見る課長。
「何が..ですか..?私は大丈夫ですよ。さ、コーヒーどうぞ」
泣きそうな顔を見られたくなくて、さっさと部屋へ入り、コーヒーを部長から順番に配る。
みんなの分を出し終え、私も席に着いた。
コーヒーを飲みながら引継ぎの話をしようとした時、部長の携帯が鳴った。どうやら会社からで、急に会社に戻らないといけなくなったと、部長は私たちに謝って帰って行った。
残された、石川さんと私で、課長の仕事を引き継ぐ。
幸い、急ぎの仕事は無いようだった。
出来るだけ課長と目を合わせないようにして、ひたすら下を向く。
「俺も出来るだけ早く仕事に戻るつもりだから」
そう言う課長に、
「無理しないで、奥さんの側に居てあげてください。部長もそうした方がいいって言ってましたし。ね、美空ちゃんもそう思うよね?」
と言って、私に同意を求める石川さん。
私に聞かないで...。
「えぇ...そうですね」
そう答えるしかないじゃない...。
課長の顔を見ることが出来ず、心が張り裂けそうだ。
