夜9時を過ぎた頃。
明日も朝早いし、そろそろ帰らなきゃ...と思ってた時だった。
課長が鞄から小さな箱を取り出して、私の目の前に置いた。
「.....?課長、これは?」
何か分からなくて首をかしげる私。
「美空にプレゼントだよ」
「え?プレゼント?」
「あぁ」
「開けても...いいですか?」
「もちろん。美空のために選んだんだから」
切れ長の目が優しく微笑んで、私を見つめる。
ドキドキしながら、箱を開けると...。
中身は、12時の位置に2つのハートを重ね合わせたようなデザインで、文字盤とベルトがブラウンの、とても素敵な時計だった。しかも――――。その文字盤にはダイヤモンドがあしらわれていて、見るからに高そうな時計。
箱には、フレデリックコンスタントと英語で書かれていた。
ブランド物には疎い私。この時計がいくらぐらいするのか、全く分からない。
「素敵な時計..。でも、こんな高そうな時計、いただけません。私...」
「俺がお前にプレゼントしたいだけだから」
「でも」
「実は、俺も買ったんだよ。ほら」
そう言って、課長がテーブルに肘をつき拳を上に向けると、スーツの袖から見えた課長の時計。
課長の腕にはまる、同じフレデリックコンスタントの腕時計。
「実は、時計の調子が悪くてさ。新しい時計が欲しくて買いに行ったんだ」
さらに言葉を続ける課長。
「これを買った後、店の中を見てたらそれが目に入って。美空に似合いそうだな...と思って。ペアという訳じゃないけど、お前と同じ時を刻むものを持ってるのもいいな、と思ってな。気に入らないか?」
「そんなことないです。本当に素敵で、私にはもったいなくて...」
「本当は指輪をプレゼントしようと思ってたんだけど、周りの目もあるだろうし、なかなか着けられないだろ?時計なら、あまり目立たないと思って」
目の前で微笑む課長に胸が震えた。幸せすぎて...。
