「嫌なんて、そんな...」
慌てて首を横に振り、否定する。
「嘘。冗談だよ」
柔らかく笑ってソファから立ち上がり、出口のある私の方へ近づいてくる課長。
そして......。
「やっと、二人きりの時間が過ごせるな」
耳元でそう囁かれ、課長の熱い吐息を感じて身体がビクンと反応する。
それに気付いた課長が、
「この前もそうだったけど、お前、耳、弱いんだ」
と、再び耳元で囁く。
「んっ」
身体の反応と共に、小さく声が漏れる。
全身が熱くなるのを感じ、自然と目が潤む。
「...美空。他の男にそんな顔見せるなよ。特に石川には」
「...え?....んっ」
課長にどういう意味か聞き返す間もなく、課長にキスされる。
社内だということもあってか少し軽めのキスを交わす私達。
「ホテルは別々の部屋だから、心配するな」
課長はそう言うと、私の頭を軽く叩いて応接室を出て行った。
もう。課長ってば。
会社ではキスしないって、ルールに付け足してもらわなきゃ。
心臓に悪いよ……。
そこで、ふと思い出す課長の言葉。
『他の男に見せるなよ。特に石川には』
……石川さん。
実は、課長とこうなってから石川さんには、はっきりと返事をした。
まさか、課長のことが好きだなんて言えるはずはなく、課長との関係を言うことなんて出来るわけがないし。
結局、『好きな人がいるから、やっぱりお付き合いできません』と、心から謝った。
でも、石川さんは、
『美空ちゃんが、その人を好きなように、僕も君が好きなんだ。だから、美空ちゃんがその人と付き合うまでは諦めないよ』
なんて、言ってくれて。
かといって、普段と変わりない態度で接してくれる石川さん。
石川さんの気持ちは、素直に嬉しく思う。こんな私でも見てくれる人がいるんだと。
でも、今の私は課長のことで頭がいっぱい。
課長との関係がこの先どうなるかなんて、誰にもわからない。
ただ言えるのは――――
私は課長のことが好きだということだけ。
