綾の言わんとしていることは分かる。
奥歯をかみ締めながら、どうすることも出来ない俺。
「わかった」
そういって電話を切った。
企画部に戻り、椅子に腰を下ろす。
美空の姿が見えない。佐山や春山もいないところをみると、昼飯でも食いに行ってるのだろう。
綾の前で、俺は美空と普通に接する事が出来るのか...?
それからバーベキューまでの間、何故か美空とすれ違いが多かった。
書類の入力や雑務を頼む事はあっても、同行や企画の仕事もほとんど無かった。
水曜日の夜、1人で『翔』に寄った。
店に着くなり、翔に言われた。
「今日は一緒じゃないんだな」
俺の横、後ろを確認してから。
「1人だよ」
大きな溜息と共に返事する。
「何かあったのか?」
「ん?何で?」
「何となく。顔つきが暗いからさ」
翔には参る。相変わらず、こいつには何も隠せない。
「今週の土曜日、部内でバーベキューすることになってさ」
「バーベキュー?いいじゃん。楽しみじゃん。なのに、何で暗いわけ?」
「......」
知らなかったということは、まだ美空から聞いてないということだ。
ということは、綾が来る事も知るはずがない。
綾も来るなんて、俺の口から言えるわけない。
言うものなら、完全に阻止するように怒鳴られるだろうから。
きっと、美空から伝わるはずだ。
後から翔に怒られる事を覚悟し、店を後にする。
