「それで、大和は何て?」

「別に。最近、課長と接する事が無くて。席は近いんですけど、課長、クライアント回りとかで外に出かけることが多くて」

課長を避けてはいるが、これは事実。


「......ふ~ん。綾、来るんだ」

翔さんはそう言うと、それっきり黙ってしまった。

そして、止めてた手を再び動かし、料理作りを再開した。








「遙菜、大丈夫なの?」

手の空いた隙に、久香が隣に座って聞いてきた。
綾さんと会うことになる私の事を心配しているのだろう。

翔さんは他のお客さんとお喋りしている。



「え?何が?」

明るく答え、とぼける私。



「あんた、メンタル面、弱いからな~。そのバーベキュー、かなり心配」

「失礼ね!大丈夫だよ。だって、私、課長の事好きでもなんでもないもの」

「嘘つき」

「ただ、気になるだけだって言ったでしょ」

「好きなくせに」

「だって、綾さんがいるんだよ?なのに、好きになんてなれないよ。好きになんて...なっちゃ....だ...め....な...っ...ひっ..く」


否定しながら、気が付くと涙が流れてて。最後までちゃんと喋られなかった。鞄からハンカチを出し、目を押さえる。



「......久香。わ...私..どうした..ら...いい?」

泣き声で尋ねると、久香からは意外な答えが返ってきた。


「好きになるのは自由だと思うよ。海堂さん、素敵だし、優しそうだもん。別に好きになってもいいんじゃない?」


「でも、綾さんがいるんだよ?」


「うん、そうだね。でもね、遙菜。過去に縛られて、今まで恋愛できなくて辛い毎日を過ごしてきたあんたが、また人を好きになれたなんて、すごくない?」

「叶わぬ恋でも?」

「人を好きになれた気持ちを大切にするべきだと思う」

「......」

「確かに、海堂さんは結婚してるから、今はどうしようもないけどさ。でも、もう恋なんてしないなんて言ってた遙菜が、また恋をしたことが、私は嬉しいよ」