土曜日が段々と近付いてくる。
綾さんをひと目見てみたいという気持ちもあるのは事実。でも、見たくない、会いたくない気持ちが9割。
課長と綾さんの仲睦まじい姿を見たくない、それが本心だった。
――――どうしたらいいのか、もう分からない。課長を思う気持ちに蓋をしなきゃいけないのは、分かってる筈なのに。
私はバカだ。
課長に少し優しくされただけで、こんなにも好きになるなんて。
1人でいると、どうしても溜め息の数が増え、気分も沈むので、気持ちを入れ換える為にも、『翔』に向かう。
久香が明るい笑顔で迎えてくれる。
「いらっしゃい!メールで来るって連絡あったから、カウンター席、確保しといたよ」
よく見ると、1番奥の席にお箸や小皿とかが用意されていた。
「ありがとう、久香」
お礼を告げ、椅子に座った私に、翔さんが話しかけてきた。
「そういえば、大和から聞いたんだけど、土曜日バーベキューするんだって?」
「はい。親睦会としてなんですけど」
課長から聞いたってことは、あれからここへ来たのかな...なんて思いながら返事をする。
「いいな~。私も行きたい。私もバーベキューなんてしたことないもん」
久香が口を尖がらせて言う。
「そうだな、今度、みんなで行こうか」
翔さんが思いついたように言った。
「そうそう、そのバーベキューに課長の奥様も来るんです」
つい口に出てしまった。
意識してることが、バレバレ?大丈夫だよね。自然な流れだよね。
必死になって自分に言い聞かせる。
「......え?」
カウンターの中で料理を作っていた翔さんの手が止まり、テーブル席へ料理を運んでいた久香も立ち止まって私を見た。
「部長が言い出したんですけど、課長も了承して。社内の噂では、かなりキレイな人らしいですね、綾さんって」
努めて平静を装う。
