「泣かせてすまない」


堪えていた涙が、溢れ出していることに気が付かなかった。



「泣いてなんか....」


「俺がお前を泣かせた」

「違います」

「俺がお前にキスをしたせいで――――」

「違う!私が、課長を好きになってしまったから!だから...」


課長が話している途中で、つい言葉にしてしまった、私の気持ち。




ハッとして、思わず口に手を当てる。



課長が自分を咎めている事に我慢できなかった。

課長が悪いんじゃないから。

私が課長を好きになったから。




知られてはいけなかったのに。


余計に課長を苦しめるだけなのに。






言ってしまってから、後悔する。



「すみません。今の、嘘ですから!」


大きく見開いた目をこちらに向け、驚きを隠せない様子の課長に、私は慌てて否定した。


こんなこと言うつもりなかったのに。
否定しなきゃ、課長が困ってるじゃない。


「変な事言っちゃってすみません。お酒のせいで、おかしくなっちゃってるみたいです、私」



課長は黙ったまま。



「今日のことは、全部無かったことにしましょ。課長も私も、酔ってるから普通じゃないんです。だから――――」

尚も、言葉を続ける私。

「だから、月曜日からはいつもの私達に戻りましょう。ただの上司と部下に」


話し続ける事で、気持ちを伝えてしまった後悔から逃げようとしていた。少しでも話す事を止めたら、余計に泣いしまいそうだったから。